取材者:貴社が展開されている事業内容、ビジネスモデルにつきまして、改めて特徴や強みなどを踏まえながらご説明いただけますか。
回答者:当社は元々、家電量販店のビックカメラの100%子会社として設立されました。当社の設立に大きく関わっているのが現在の安井社長であり、安井社長は元々、富士銀行、現在のみずほフィナンシャルグループにてバンカーとして13年間、全国の主要な支店等を経験しました。キャリア後半には、大手町の本部にて中小中堅企業向けのマーケティングや、全国に多数ある支店の統括、企画セクション等を歴任しました。当時はBtoBtoCのビジネスモデルで、安井社長が銀行の本部で培った中堅企業向けのマーケティング経験が、当社のBtoBビジネスの展開に非常に役立っております。後に本人も、当時の経験は非常に有益であったと語っております。その後、安井社長は出身地である九州の大分で実家の家業を継ぐという選択肢もあったのですが、銀行時代にお世話になったビックカメラのCFOに説得され、ビックカメラに転職することになりました。安井社長は、金融機関やBtoBマーケティングで培った経験と、ビックカメラで小売を学んだ経験を活かし、現在のヒト・コミュニケーションズの経営に尽力しております。
ヒト・コミュニケーションズの社長就任の経緯としては、ビックカメラのグループ会社である当社の前身会社の経営者が交代するタイミングで、当時頭角を現していた安井社長に白羽の矢が立ったという経緯がございます。当初は本業の傍ら週に1、2回、経営を見てほしいという依頼を受け、社長に就任しました。商売の血が流れている安井社長は、就任後、会社の存在意義や成長を強く願うようになり、ビックカメラを退職し、ヒト・コミュニケーションズの経営に専念することを決意しました。当時の当社は、資本もビックカメラ100%、社名もビッグスタッフという旧社名でしたが、安井社長はビジネスモデルがしっかりしていれば、資本や社名は関係なく受け入れられると考えていました。しかし、現実は厳しく、資本関係があることで、流通をまたいだ取引が難しかったという背景もあり、資本独立を決断しました。MBOに際しては、ビックカメラの創業者の新井氏にエンジェル投資家として出資を依頼し、安井社長と新井氏の2名でバイアウトしました。現在も新井氏の株式が残っているのは、当時の出資依頼がきっかけとなっております。
ビジネスモデルに関してですが、当初は家電量販店ビジネスに限られていたため、まずは手っ取り早く始められる事業として、当時普及し始めた光回線による高速インターネットの加入獲得に注力しました。安井社長は、高速インターネットが整備され、様々な家電やパソコンが繋がることで、便利な世の中が実現するという国策に沿った形でビジネスを進めることが重要だと考えました。当時まだ規模の小さかった当社は、通信回線の加入獲得に特化することで、デジタル家電メーカーやパソコンメーカー等の関連企業が、自然と当社に注目してくれるようなブランドを確立できると考えたのです。人材派遣のように、一人一人にノウハウが蓄積されるビジネスモデルでは、会社にノウハウが残らないという課題がありました。そこで当社は、アウトソーシングビジネスモデルを採用し、業務ごと請け負うことで、会社としてのノウハウを蓄積し、生産性と収益力を向上させることを目指しました。通信分野においては、他社よりも多くの契約を獲得することで、顧客に明確な成果を還元するというビジネスモデルで、マーケットシェアを拡大していきました。顧客の要望としては、より多くの契約を獲得してくれることを期待されており、その期待に応える形で事業を拡大してまいりました。
また、アウトソーシングのビジネスモデルを進化させ、経験者だけでなく、未経験者を育成することで、継続的に人材を確保できる体制を構築しました。これは、安井社長がラグビー経験者であることと関係があります。ラグビーは、様々な体格や能力の選手がそれぞれの役割を果たすことで、チームとして力を発揮するスポーツです。また、試合中は監督が指示を出せないため、チームのキャプテンが状況判断を行い、指示を出すという特徴があります。当社は、このラグビーの要素をビジネスに応用し、アウトソーシングチームにおいても、優秀な人材をリーダーに据え、チームで自律的にオペレーションを完結できる体制を構築しました。このようなチームオペレーション体制により、様々な分野で再現性の高いサービスを提供し、顧客の要望に応じたオペレーション体制を構築することで、実績の最大化と生産性向上を実現しています。これは、様々な同業他社も同様のことをおっしゃっていますが、当社は特にこの点にこだわっており、ビジネスモデルの進化とチームオペレーションの確立により、取り扱う商品やサービスが異なっても、再現性の高いサービスを提供できるようになりました。
2011年に上場した当時、通信分野や家電メーカー向けの販売促進事業は、いずれ頭打ちになることが予想されました。人口減少も懸念材料となり、上場した年からツーリズムとインバウンド事業を新規事業として立ち上げました。当時、民主党政権下で始まったインバウンド政策は、税金を投入せずに経済を活性化させることを目的としており、当社は空港が重要なタッチポイントになると見込んでいました。これは、国土交通省へのヒアリング等で得られた情報に基づいています。しかし、空港内のビジネス参入には、ライセンス取得等の障壁があり、空港関連事業への本格的な参入には時間を要しました。当初は、空港の手前で物販やサービスを提供することから始め、空港内への参入の機会を伺っていました。
2016年、17年頃、当社は大きな転換期を迎えました。当社の通信ビジネスの主要顧客であったNTTグループが、光回線の直販を中止し、光ファイバー網を他社に提供するビジネスモデルへと転換したのです。当社は、NTT東日本、西日本を中心に、NTTグループの光回線獲得に注力していましたが、このNTTグループの戦略変更は、当社にとって大きな痛手でした。しかし、以前から温めていたEC支援事業への参入を決定し、ECサイト運営の受託企業である株式会社BBFを買収しました。この買収は、EC受託支援事業を獲得しただけでなく、現在の主力事業の一つであるホールセール事業の獲得にも繋がりました。当時はおまけの位置付けだったホールセール事業ですが、現在ではグループを支える重要な事業に成長しています。さらに、インバウンド事業にも注力し、海外旅行客の国内オペレーションを受託する株式会社トライアングルと、インサイドセールスを行う株式会社セールスロボティクスを買収しました。しかし、2019年末から2020年初頭にかけて発生した新型コロナウイルスの影響により、当社の祖業である販売系営業支援事業は壊滅的な打撃を受けました。一方で、非対面・非接触ニーズの高まりから、PC関連事業が巣ごもり需要を獲得し、また、空港の水際対策やワクチン接種会場の運営等のコロナ対策事業においても、当社のアウトソーシングビジネスモデルが強みを発揮しました。その結果、コロナ禍の2021年、2022年には過去最高益を達成し、苦しい状況を乗り切ることができました。コロナ禍が収束し、インバウンド需要の回復が見込まれる中、当社は長年探し求めていた空港内事業を展開する株式会社FMGを75億円で買収しました。これは、金額に変えられない魅力があったため、大型買収ではありましたが、躊躇なく実行したものです。買収額については、実際にはもっと高額であっても、何としてでも買収すべき案件であったと考えています。
2023年10月には、コロナ後の状況を見据えた中期経営計画を発表しましたが、省人化・省力化ニーズの拡大や販売系営業支援事業の回復という当初の想定が外れ、計画を大幅に下方修正せざるを得ない状況となりました。株価も大きく下落し、厳しい状況に追い込まれました。その反省を踏まえ、2024年11月には新たな中期経営計画を策定し、エアポート、ホールセール、インバウンド・ツーリズム、デジタル営業支援・ECの4つの重点領域を定め、経営資源を集中投下することで再成長を目指しています。また、前期の反省を踏まえ、保守的な期初計画を立てた今期は、第1四半期において各事業が想定以上の業績を達成し、上方修正を行いました。第2四半期以降も、ホールセール事業とエアポート事業を中心に、更なる収益向上が見込まれます。今後も、足元の業績の確かさと、下期に控える万博等のイベントによる需要増を見据え、復活をアピールしていきたいと考えております。
取材者:空港内事業への参入により、具体的にどのようなことができるようになったのですか?
回答者:今回の第1四半期の説明資料の11ページにあるイラストに見られるように、元々、当社は保安検査場の手前に位置する制限区域外において、航空会社のラウンジ運営や小売り・飲食等のサービスを提供していました。しかし、制限区域内においては、空港ごとに必要となる構内営業権というライセンスを取得していなかったため、事業を展開することができませんでした。今回、成田国際空港を拠点とし、制限区域内における構内営業権を保有する株式会社FMGをグループ化したことにより、旅客対応や航空機整備等の業務を一体的に受託することが可能となりました。成田国際空港は、羽田空港に比べてまだ拡張の余地があり、新規にライセンスを取得して空港内ビジネスに参入することが非常に困難であることから、FMGの買収は当社にとって大きな意義があります。FMGは、コロナ後の航空需要の急回復に対応しきれていないという課題を抱えていましたが、当社のノウハウを導入することで、人材採用と育成を強化し、業績向上を実現しています。当社のノウハウが徐々に浸透し始め、人材の採用と育成が進んでいます。
取材者:仕事の幅が広がったというイメージですか?
回答者:その通りです。グランドハンドリング事業においては、スイスに本拠地を置くグローバル企業であるスイスポートジャパンが、日本国内においては、まだ大きなマーケットシェアを占めています。しかし、当社は今後2 - 3年で、全国の主要国際空港をカバーできる体制を構築し、将来的には海外展開も視野に入れています。グランドハンドリング事業は、未経験者を育成しながらチームを拡大していくという当社の強みを活かせる分野であり、国内だけでなく、海外展開も見込める事業として、大きな期待を寄せています。
回答者:ただし、教育の部分で難しそうですよね。
取材者:そうですね。
回答者:グランドハンドリング事業は専門性が高いため、当初は当社としても参入に戸惑いがありました。しかし、当社はこれまで家電、通信、ツーリズム、スポーツ、パブリック等の様々な分野で事業を展開しており、チャレンジしてできなかったことはありません。グランドハンドリング事業においても、1年以上かけて丁寧に準備を進め、実際に当社の社員を現場に送り込み、経験を積ませることで、事業を軌道に乗せることができました。今後は、この分野においても、当社の強みを活かした事業展開を進めていくことができると考えています。
取材者:ホールセール事業の特徴やマーケティング戦略についてお聞かせください。
回答者:ホールセール事業は、元々ECサイト運営の受託企業の子会社として存在しており、当初はIPライセンスを活用したビジネスという認識が薄かったというのが正直なところです。具体的には、株式会社サンリオや映画会社、出版社等からキャラクター等のIPライセンスを供与いただき、アパレルを中心としたコラボ商品を企画開発し、株式会社しまむらや株式会社ドン・キホーテ等の小売事業者に販売するというビジネスモデルです。これらの小売事業者は、自社で商品を製造しないため、魅力的な商品を提案できる仕入れ先を求めています。当社は、IPライセンスを活用した商品企画に加え、インフルエンサーと連携した商品企画や、最新のファッショントレンドを取り入れた商品企画にも力を入れています。また、流行を予測し、事前にライセンスを取得することで、コスト削減にも努めています。商品の製造は、中国、バングラデシュ、ASEAN等の海外で行っており、企画から製造、販売までを一貫して行うことで、高い粗利率を確保しています。
取材者:ホールセール事業の今後の成長性についてお聞かせください。
回答者:以前は『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』といったビッグタイトルのライセンスを取得できたことで、大きな売上を記録しました。しかし、最近はそういったビッグタイトルのライセンスを獲得できていません。一方で、ビッグタイトルがない中でも増収増益を続けているのは、当社の商品企画力が業界内で認知され、通常のライセンスでも売れる商品を開発できるようになったためです。今後は、国内販売に加え、海外販売できるライセンス契約を締結することで、海外への輸出も視野に入れています。日本のIPライセンスを活用した商品は、インバウンド客にも人気が高いため、輸出ビジネスを通じて更なる事業拡大を目指します。
取材者:IP活用やインフルエンサーマーケティングのノウハウは、M&A以前からあったものなのですか?それとも、貴社が協力することで、そういったものが伸びてきたのですか?
回答者:当社が協力することで、それらのノウハウが向上したというわけではなく、元々BBFが持っていたノウハウになります。当社としては、顧客に喜んでもらうためにはどうすれば良いかを追求した結果、現在のビジネスモデルにたどり着きました。以前は、IPライセンスを活用した商品の売上は、現在ほど大きくありませんでした。しかし、巣ごもり需要の高まりとともに、キャラクターグッズ等の売上が増加し、ビジネスモデルが成功し始めました。特に2023年以降は、右肩上がりに成長しており、今後も更なる市場拡大と付加価値向上を目指し、必要があればM&A等も検討していきたいと考えています。
取材者:わかりました。今期の業績についてですが、様式予想と比べて営業利益率がかなり上がっていると思いますが、これはどういった要因が考えられますか。
回答者:前年対比で考えると、昨年の業績が悪すぎたということが挙げられます。過去の推移を見ると、事業ポートフォリオの分散が進んだことで、営業利益率は本来1桁台の後半から10%程度まで回復する可能性があると見ています。粗利率の改善が重要なポイントであり、現在は20%台ですが、各事業が本来の力を発揮すれば、23%から24%まで向上すると考えています。販管費率を13%から14%でコントロールできれば、営業利益率が向上し、ROEも14%程度まで向上する見込みです。
取材者:株主還元策については、どのような方針をお持ちですか?
回答者:新中期経営計画では、株主還元を重視する方針を明確に打ち出しました。基本的に累進配当を維持し、配当性向は安定的に30%代を目標としています。今期は期初予想が低いため、配当性向は68%程度になる見込みですが、これは無理をしているわけではなく、14期連続増配という実績を維持したいと考えているためです。19年の持ち株会社化以降も、今期で6期連続増配となります。キャッシュアロケーションを適切に行い、無駄なキャッシュの保有を避けるため、株主還元を強化することで、投資家の皆様に支持していただけるよう努めてまいります。