取材者:貴社のビジネスモデルとサービスの特徴、強みなどを教えていただけますか。
回答者: 弊社では、今後より深刻になることが見込まれる日本の労働供給量の不足という社会課題に対して、勤怠管理と工数管理のソリューション提供を通じた生産性向上という解決策の提供で貢献したいと考えています。 今後30年から40年で労働供給量は大幅に減少すると予想されており、人材の生産性向上は喫緊の課題です。勤怠管理において、 単に労働時間を記録するだけでは意味がなく、どのような仕事にどれだけの時間を使っているのかを把握することが重要です。 企業や部門の目標に直接つながらない仕事の時間を減らし、より重要な仕事に多くの時間を割くことで生産性を向上させることができます。 そのためには、何にどれだけの時間を使っているのか、業務の内容とそれに投下されている時間を可視化する必要があり、弊社の勤怠管理・工数管理システムはまさにそれを実現するソリューションです。 一般的な勤怠管理システムは、単に労働時間の開始と終了を記録するだけですが、それだけでは生産性向上にはつながりません。 弊社のシステムは、従業員がどのような業務にどれだけの時間を使っているのかを詳細に記録し、分析することができます。 このデータに基づいて、業務プロセスの改善や、従業員の配置転換などを実施することで、生産性向上を図ることができます。 また、弊社のシステムは、複数のグループ企業をまたいで利用することができます。 これは、大企業にとって非常に重要な機能です。 大企業は、多くの場合、複数のグループ会社や子会社を抱えており、それぞれの会社で異なるシステムを利用しているケースが少なくありません。 しかし、それではグループ全体で一気通貫した形での勤怠管理や工数管理が難しく、グループ全体での生産性の改善を進めることに繋がりません。 弊社のシステムであれば、グループ全体で共通のシステムを利用できるため、グループ全体で横比較が可能なデータを取得し、グループ全体の生産性向上を図ることができます。 実際、現在では提供してるライセンスの約半分がエンタープライズ向けとなっており、大企業からのニーズが高まっています。 大企業向けにSaaS型の勤怠工数管理サービスを提供できる企業は他にいないため、今後はこの分野に注力していきたいと考えています。 将来的には、勤怠管理や工数管理だけでなく、ワークロード分析、組織構築、オンボーディング、目標管理など、より幅広いサービスを提供することで、より大きな社会課題の解決に貢献できる企業を目指したいと考えています。
回答者: エンタープライズ企業にフォーカスする理由としては、まず、日本のIT投資予算の65%をエンタープライズ企業が占めているという点があります。 また、エンタープライズ企業向けの勤怠工数管理システムは一度導入されると長期間利用される傾向があり、中には15年以上利用している例もあります。つまり、エンタープライズ企業との取引は、より長期的な収益計上を見込むことができます。一方で、エンタープライズ企業は、導入までに時間がかかるという傾向があります。 稟議プロセスや、ERPシステムとの連携など、さまざまな要素を考慮する必要があるため、導入までに2〜3年かかることも珍しくありません。 しかし、一度導入されると長期的な利用が見込めるため、長期的な視点で取り組むことができます。 さらに、エンタープライズ企業との取引には、1対1の関係性だけでなく、その周辺企業と強固な関係性を築くことが重要です。 弊社は、セールスフォース、SAP、デロイトなど、エンタープライズ企業を取り巻くグローバルなIT企業やコンサルティングファームと強固な関係性を築いています。例えば、SAPには、(日本における複雑な法制度対応が十分ではない)自社の勤怠ソリューションではなく、弊社のソリューションを推奨していただいています。このような関係性を築くことは容易ではありませんが、エンタープライズ企業との取引を中長期的に拡大していく上では、非常に重要な要素だと考えています。 こうしたパートナー企業の皆さんに「勤怠ソリューションはチームスピリットを使ってください」と言っていただける関係ができていることは、当社の大きな強みだと考えています。
取材者:事業展開を進める上で他に考慮している要因はありますか。
回答者: サービスの良さももちろん重要ですが、それ以外にも、エンタープライズ向けIT業界特有の「村社会」的な文化の存在もあります。 この業界では、人脈や信頼関係が非常に重要であり、この領域で25年近くの経験がある自分がCEOとなって、長年培ってきたネットワークを使った営業ができることは、他社にはない、大きな強みになると考えています。
取材者: 貴社の創業と現在のマネジメント体制に至った経緯について教えていただけますか。
回答者: 元々は、1996年に荻島浩司氏によって創業されました。 以降、長年にわたり、勤怠管理・工数管理のビジネスを展開してきましたが、未来に向けてはエンタープライズ企業へのフォーカスを強化していく必要性を認識しました。しかし、先ほどお話したような傾向や文化もある中で、既存の体制ではエンタープライズビジネスを大きく成長させることが難しいという課題に直面しました。 そこで、荻島前社長は自ら身を引き、エンタープライズ分野での経験とネットワークを持つ自分が新社長を拝命することになりました。
取材者: ありがとうございます。 すみません、貴社の業績に関しましては、今黒字化されて、次の目標に向けても順調に推移されていると思いますが、しっかりとした体制が整ってきたから、というふうな見方でよろしいのでしょうか。
回答者: はい、その通りだと思います。 エンタープライズ企業向けシステムを約3年の赤字計上を伴う形で、集中的に開発を進めてきましたが、その開発は無事に完了し、これから本格的に事業を拡大していくフェーズに入りました。 その開発拠点をシンガポールに置いていましたが、開発完了を受けて大きく縮小することを決定しました。 これにより固定費が削減され、黒字化が加速する見込みです。
取材者: 新規顧客の獲得に対する取り組みなどはございますか。
回答者: まず、エンタープライズ企業との取引を加速するために、組織体制の見直しを検討しています。 必要な人材の採用を強化し、より効率的な営業体制を構築します。 また、既存ソリューションの付加価値を高めるために、M&Aも活用しています。 最近では、ワークライフログという会社を買収しました。 この会社は、PCの稼働状況と連携した勤怠・工数の自動入力や、AIによる業務分析などを実現する技術を持っています。 この買収により、ユーザーの入力の手間を削減することなどを通じて、既存ソリューションの付加価値を向上させ、既存事業全体の売上拡大に繋げることができます。 非常に小規模なM&Aで、買収価格としては、1億円にも満たないのですが、買収による将来的なシナジー発揮のポテンシャルは大きいと思っています。このようなM&Aも通じて、顧客満足度を高め、さらなる顧客獲得を目指しています。
取材者: やはりM&Aの戦略としては、新規事業をというよりは、シナジーがあるような形で、サービスの不自由な部分を補うというところが基本的な方針になってくるのでしょうか。
回答者: M&Aは「出会い」だと思っているので、その活用を特定の領域に限定するつもりはありません。 当社として将来的にやりたいことを実現できる企業があれば、M&Aの候補になります。 具体的には、当社はマルチプロダクト企業への進化を目指している中で、当社が現在提供していないプロダクトを持つ企業は、当然、有力なM&A候補先です。もちろん、既存事業とのシナジー効果も重視しており、両方の視点からM&Aを積極的に活用していきます。 つまり、まずは何かしらの形で我々の事業に接点がある形を考えますが、我々が今はまだやってないけど、未来にやりたいと思っているものであれば、M&Aのターゲットにすることは断然あり得るかな、というふうにも思います。
取材者: なるほど。 社長、営業人員増加などの話もあったのですが、採用面では、どの企業さんも苦労をされている中で、人材採用の戦略や育成に対する方針みたいなものはございますか。
回答者: 先ほどお話した通り、現在、全社の組織体制をよりお客様本位な形に変えようと思っています。その新しい枠組みの中で採用も強化する方針なのですが、コンペンセーションのあり方も、大きく変えて良いのかな、と考えています。というのも、今、非常に株価が堅調になりつつあるものの、我々の今の株価水準は絶対値としては未だに非常に低いので、エクイティ・コンペンセーションを使った採用も大いに検討する価値があるだろうと考えています。
取材者: グローバルトップ企業との強力な関係性は、どちらかというと日本向けの話だと思うのですが、今後、海外に対する戦略であったり展開についてはどのようにお考えでしょうか。
回答者: 当面、当社は日本事業にフォーカスする方針だと思っていただいて構いません。 エンタープライズ向けのマーケットは、外資のERPベンダーも強い領域です。 多くの日本の大企業は、Oracleやセールスフォースを導入しています。 しかしなぜ外資系のプレイヤーが勤怠や工数の領域に入ってこないかというと、日本の法制度が複雑で、細やかな対応が必要だからです。日本固有の法制度だったり、やり方、仕組み、慣習だったりすると、グローバルトップ企業はそれに合わせにはいけない、という話になるわけです。 そこに我々のニッチさというか、ユニークさがあると思っていて、そこを我々最大限活かしたいと思っています。 日本でビジネスをやる以上は、日本の法制度に対応しなければいけません。 でも、グローバルERPベンダー、グローバルなトップIT企業は、自分でやりたいけどやり切れない。 そういう中で、我々は非常にフレキシブルに対応できており、むしろERPベンダーを含むグローバルなIT企業から、我々のソリューションと彼らのサービスを組み合わせて提供したい、という相談を受けています。つまり、今後、彼らが日本でのビジネスを拡大すると、それに合わせて我々のビジネスも拡大するという関係性が出来ており、今後、そこをさらに追求していきたいなと思います。
一方、海外での取り組みは、日本企業が海外でビジネス展開をしていて、その海外にいる従業員の勤怠とか工数管理を日本と同じようにやりたいですっていうニーズが出たら、これは受注していきたいな、と思います。 しかしメインにはなり得ないとは思っており、当面はまだまだ日本の国内でやれること、やるべきことが多すぎるので、そこにフォーカスをしていきたいと考えています。
取材者:今後の株主還元策につきまして、方針や戦略を教えていただけますか。
回答者: 株主還元は積極的に実施していきたいと思っています。 しかし数年間にわたって当期利益は赤字だったので、今、バランスシート上には、配当可能利益がありません。 つまり、累損が一掃されるまで、配当も自社株買いも基本的にはできない、という状況です。そうした中で、配当や自社株取得以外の方法での株主還元策を導入しようと思っています。というのも、我々は機関投資家にちゃんと持って頂けるようになりたいのですが、取引高が小さすぎて機関投資家に積極的に売買される銘柄になれていません。それを解決するために、まず株主還元策の導入を通じて個人投資家からのフォーカスを増し、取引高を押し上げていくことを検討しています。 今後の決算発表の場などで、より具体的な話ができればと考えていますので、正式発表までお待ちいただければと思います。現時点では、機関投資家の皆さんとお話する際、当社は配当だとか自社株買いでない形、つまり第3の形での株主還元の早期実現を検討しています、という説明をしています。
回答者:IR戦略としては、株主構成を変えていきたい、もちろん機関投資家を増やしたいという思いはあります。ただ、お話した通りの状況なので、あえてここ1年ぐらいは個人投資家に完全にフォーカスしたいと思っています。これまでも個人投資家向けに、非常に丁寧なIRをしてきたのですが、どちらかといえば既にお持ち頂いている個人投資家への対応が主でした。しかし、株価やトレーディングボリュームを高めることを意図する、既存の個人の方だけだと限界があり、新しい個人投資家がどんどん入ってくるようにしたいと思っています。そのためには、会社のことを知らない、見たことも聞いたこともないという人に、この会社は面白いな、世の中的にも意義があるな、と思ってもらえることが、スタートポイントだと思っています。したがって、今期Q1から、かなりドラスチックにIR資料の内容やIR活動の手法も変えてみたところです。 今後も証券会社等が主催する個人向けの投資セミナーやイベントに、積極的に参加しようと思っています。幸い、今年は黒字化を見込んでいるので、個人投資家の方々にとっても安心して投資していただける先になるのではないと思っています。
取材者:第1四半期が終わったばかりではありますが、取り組まれていることであったり、業績に関わらずトピックス的なものがあったら教えていただけますか。
回答者: エンタープライズ領域の顧客企業は、意思決定が早くはありません。従来、ミッド・スモールのお客さんを相手にしてきた時は、社長を説けば2ヶ月後に導入という世界もありましたが、エンタープライズはそうではありません。 導入が決まるまでに、2年とか3年かかることも普通です。 導入が決まっても、実際にプロジェクトとしてローンチするには、さらにそこから1年、2年かかることもあります。 この第1四半期もそうだったのですが、ローンチするはずだったものが、半年後にずれますという話が、日常茶飯事になっています。そうした状況なので、あまり四半期ごとの業績の良し悪しに左右されないでいただきたいと思っています。 会社の方向性としては正しい方向に歩んでいるという自信はあり、グローバルなIT企業とのパートナー関係など、一朝一夕に真似されることのない構造的な強みも確かにあるので、安心して見ておいていただきたいと思います。とはいえ、足元の状況が心配な投資家の皆様も多いとは思うので、会社としては可能な範囲で、先行指標となるようなデータポイントを積極的に開示していきたいと考えています。例えば、商談件数や規模が、1年前と比べて何倍になっているか、などでしょうか。そうした点をきちんとお伝えできるようなIR活動をやっていきたいと思っています。
回答者: 今、非常に大きなチャンスがきていると思っていますし、投資家の皆さまにも訴求できるタイミングだなと思っています。 四半期ごとのIR活動に留まらず、ポジティブなニュースをできるだけ多く、日常的に積極的に開示していきたいと思います。