取材者:
貴社のビジネスモデルや事業内容につきまして、特徴や強みなども含めてご説明いただけますか?
回答者:
主要なセグメントとしましては、この四つを掲げております。同じ資料に創業以来の沿革も記載しておりますが、現在では、流通事業、運輸事業、観光事業、不動産事業、その他の事業セグメントという構成です。この中でも、後ほど述べますが、流通事業が売上高、営業収益で非常に大きな割合を占めているという構造です。資料には、主な設備概要も記載しております。流通事業ではスーパーマーケット60店舗と調剤薬局1店舗を有しており、セグメント全体では61施設です。運輸事業は759台の車両を保有しており、どの数値を見ても県内事業者としては長野県内で最大級の規模です。
一番古い事業は、もともと筑摩鉄道といいまして、上高地に向けて、松本市中心部から新島々というところまで電気鉄道を敷設することを目的に創業した経緯がございます。創業期の一番の発祥の事業は運輸事業ということになりますが、先ほど申し上げました通り、途中で参入した流通事業が、現在、事業の一番大きな営業収益を占めるという状況です。これらの概要は、資料15ページのグループ沿革にも記載がございます。
資料16ページが、事業のセグメント別の営業収益、それから営業利益の構成です。データは2024年3月期のものになりますが、内側の円が営業収益で、連結営業収益に占める流通事業の割合が75%、次いで運輸事業が12%、観光事業が11%という構成です。利益構成は外側の円になりますが、要素が少し変わりまして、営業利益のベースでも流通事業が54%を占めておりますが、続いて29%を占めているのが運輸事業です。営業収益で12%に満たないものの、営業利益では3割を占めるという構図になっており、これは主に運輸事業、具体的には観光系の運輸です。先ほど申し上げました上高地や、冬場の長野白馬間のスキー客、スノーボーダーの輸送といった観光系の路線が、運輸事業の中でも非常に大きな割合を占めており、利益が非常に大きく出る構造です。観光事業もまずまずの利益率を確保しているという状況です。
資料17ページが全体の事業構成のバブルチャートです。流通事業は非常に大きな売上高を示していますが、利益率はそれほど高くなく、2%から2.5%という水準です。しかし、グループ連結ベースでは非常に大きなキャッシュフローを生む源泉となっており、流通事業で生まれたキャッシュフローを、流通事業内での投資はもちろんのこと、運輸事業や観光事業といった利益率の高い事業に充当しながら、事業拡大を図っているという状況です。資料18ページには、長野県内の主要な観光スポットと、当社の営業拠点の図がございますので、こちらもご参照いただければと思います。
取材者:
流通事業に関しましては、創業してから途中から参入されたという経緯があったかと思いますが、流通事業を始めるに至った経緯やきっかけなどはございますか?
回答者:
具体的な経緯は、1967年に第1号店を出店したのが最初です。当時の経営陣は、流通事業に関心を寄せており、当社が所有していた長野市内の営業所などの不動産活用という面でも有効だと判断したと聞いております。
取材者:
不動産を所有されていたのですね。
回答者:
初期の店舗は、概ね電車やバスの営業所から始まっています。
取材者:
観光事業や流通事業に関しまして、特にスキーやスノーボードのお客様を白馬などに輸送されているとのことでしたが、貴社の事業において、季節による売上などの変動はございますか?
回答者:
決算短信等もご覧いただければと思いますが、当社が最も営業収益、営業利益を上げられるのは、第2四半期です。続いて第1四半期、第3四半期がほぼ同じくらいの水準で、この期間がいわゆるグリーンシーズン、春から秋にかけての紅葉のスノーシーズン以外の観光の季節となります。この期間は、先ほどから申し上げております上高地への輸送が運輸事業における一つのトピックスとなりますとともに、当社が宿泊施設を構えております松本市が、上高地への基地という位置付けで、宿泊需要も非常に高まる季節となります。観光系の宿泊、運輸ともに盛り上がる第1四半期から第3四半期、特に第2四半期の業績が強い期間です。
一方、第4四半期は、白馬の観光輸送が非常に活況であることは事実ですが、松本を拠点として白馬の観光をされるお客様はあまり多くないという状況です。当社は白馬に宿泊施設等を保有しておりませんので、運輸事業、観光事業が片肺飛行という形になり、第4四半期は業績が落ち込むという構造が通常です。
取材者:
そうしますと、貴社のホテルやバスを利用されるお客様は、県外からのお客様が多いというイメージですか?
回答者:
県外のお客様が大半です。例えば、白馬につきましては、県外あるいはインバウンドのお客様が、長野県庁所在地の長野市まで新幹線などでいらっしゃって、そこから白馬への輸送を担っているという構図です。
取材者:
長野でホテルと聞くと、例えば部活動の合宿で菅平に合宿に行くといったイメージがありますが、菅平ではスポーツ施設の合宿などは行われているのですか?
回答者:
昔から菅平はラグビーの合宿が多いことで知られており、春から雪が降るまでの涼しい期間は、スポーツ合宿に最適な環境です。最近の状況は把握しておりませんが、従来はラグビー等の方々の利用が多かったと聞いております。菅平は、スキーのお客様もいらっしゃるかと思いますが、アクセスがあまり良くないため、現在、特に活況だという話は聞いておりません。そもそも、当社は菅平や長野県の東側にはあまり拠点がございませんので。
取材者:
貴社は昨年の12月に上場されたとのことですが、このタイミングで上場された目的はどういったところにございましたか?
回答者:
時期としては、当社が想定した最短のスケジュールで上場に至ったというのが一つです。上場自体は、2010年代初頭から組織的には準備を進めておりました。ただ、ある程度準備が整ったところで、2019年に台風の被害があり、施設が損害を受けたり、コロナ禍で業績が大きく落ち込んだりしたため、結果的に見送り、延期という形になりました。コロナ禍が落ち着いた2023年あたりから、改めて上場準備を再開し、昨年12月に至ったという経緯です。
地方のインフラを担うことが事業の主体となっている企業体ですので、上場による知名度の向上を通じて、人材を確保することが主要な目的の一つです。また、観光系の事業も展開しておりますので、今後の成長を考えると、様々な地域開発への関与も必要と考えております。地域開発といった事業は、初期投資額も相当大きくなるため、上場による資金調達の多様化が図れることや、他社様と連携して開発事業を進めていく上でも、上場の知名度は非常に有効であると考え、主にこれら3点が上場の目的となります。
取材者:
実際に、人材採用などで苦戦されている状況なのですか?上場による効果や、現在の採用戦略について教えていただけますか?
回答者:
上場後、最初の新卒採用は2025年4月入社の方々となりますので、直接的な影響はこれからとなります。次年度以降、プラスの影響が出ることを非常に期待しているところです。具体的な採用戦略については、まだ詳細を検討中ですが、せっかく得た知名度を生かしたグループ一括採用なども視野に入れながら、今後しっかりと計画を練っていく考えです。
取材者:
業績についても少しお伺いしたいのですが、2024年3月期は、コロナ禍の影響が薄れて人流が回復したことなどが影響し、利益が前年比300%と大幅に回復したとのことでしたが、今期も昨年と比べて業績が好調な要因は何ですか?
回答者:
主な要因としては、まず、流通事業が大きな増減なく、一定程度の営業収益、営業利益を稼いでくれるという基盤が確立できていることが挙げられます。加えて、おっしゃられた通り、人流が当社の想定を上回る規模で回復しており、特に円安の影響によるインバウンドの増加が、非常に大きな追い風になっています。
最大のマーケットである上高地は、昨年度もコロナ禍前に比べて来場者数が大幅に増加しましたが、2025年3月期はそれをさらに上回る見込みです。資料にも乗降客数のデータがありますが、右肩上がりに増加しています。白馬についても同様に、2023年の実績をさらに上回る勢いです。これらの路線は観光路線であり、バスタクシー等は運賃規制がありますが、観光路線については弾力的な運賃体系が認められる傾向があります。そのため、観光客向けの路線については、可能な範囲で運賃の値上げも実施しており、集客数の増加と単価の上昇が業績を押し上げる要因となっています。
また、宿泊客数も増加しており、特に第1四半期から第3四半期にかけての松本地区の宿泊施設は、稼働率が8割を超える水準で推移しています。これらの要因が、業績の大きな伸びに繋がっていると考えております。
取材者:
観光地にいらっしゃるお客様のうち、外国人の方はどのくらいいらっしゃるのですか。
回答者:
運輸事業の特性上、バスあるいはタクシーの乗客が国内か海外かということをデータとして正確に把握することが難しいのが実情です。感覚的な割合としては、シーズンにもよりますが、3割程度はいらっしゃるのではないでしょうか。日によっては、需要を上回るほど外国のお客様が多いと感じることもあります。
取材者:
第3四半期までの業績は想定通りですか?
回答者:
第3四半期までは、当社の想定を上回る好調な状況です。業績については、様々な投資家様、その他からもお問い合わせをいただいておりますが、第4四半期は通常、業績が弱い時期となります。特に、冬季は天候に大きく左右され、例えば、東京などの大都市圏で悪天候により交通機関がストップすると、こちらへお越しいただくお客様が激減するということも想定されます。そのため、例年の傾向を考慮し、第4四半期についてはやや控えめな業績予想としている状況です。
取材者:
今年は例年に比べても、新幹線などが運休しているという印象がありますが、業績への影響はございますか?
回答者:
過去には、数日間運休が続くといった大変な時期もありましたので、それに比べれば、影響は想定の範囲内であり、十分に許容できる程度だったと考えております。
取材者:
今後の成長戦略について教えていただけますか?
回答者:
資料19ページに記載がございます。流通事業に関しましては、用地取得などの問題があり、計画通りに進まないこともありますが、当面3年間は、年間平均1店舗程度の新店開発を行いたいと考えております。それにより、緩やかな売上増加を目指すとともに、新たな店舗ブランド「デリシアミールズ」の展開も進めております。
昨年から、新店や改装を含めて3、4店舗で展開しているのが、お総菜や、簡単な加工ですぐに召し上がっていただける食材を提供する売り場の拡張です。これらの商品は、利益率も高いというメリットがあります。このタイプの店舗は、当社の店舗の中でも大型店であり、このブランドを展開することで、集客と売上、利益の向上を目指しております。
運輸事業につきましては、上高地、白馬の路線バスの強化が中心となります。これらの路線は、この2年間、当社の売上、利益を牽引してきたセグメントですので、ダイヤの適正化や、運転手不足という課題はありますが、赤字路線の撤退も進めておりますので、そこで生まれたリソースを投入しながら、輸送力を維持、強化するとともに、運賃につきましても、毎年必ずしも可能とは限りませんが、観光需要に応じて値上げも検討しながら、業績を伸ばしていきたいと考えております。
観光事業に関しましては、資料にも簡単に記載しておりますので、後ほどご参照いただきたいのですが、様々な施設において、高品質の部屋を用意し、高価格帯への移行を進めております。今期、春に上高地にありますルミエスタホテルをリニューアルオープンし、大規模改装によって高価格帯路線に転換しましたが、高い単価を維持しながら、稼働率も非常に高い水準を維持できております。
資料に掲載しております、諏訪湖の上諏訪温泉朱白では、レイクビュー客室の面積を広げ、内装も豪華にするなど、高価格帯の客室を増やしており、2025年5月頃にはリニューアルオープンできる見込みです。ブエナビスタは、当社の基幹ホテルですが、こちらも随時、大規模改修を行い、高単価の客室を増やす構想で検討しております。
最後に、不動産事業に関しましては、県内の観光地で一定の事業を行っておりますが、長野県内には、まだまだ観光地としてのポテンシャルがあると考えております。当社が従来から展開しております蓼科エリアの別荘開発も進めていきたいと考えておりますし、他にも県内の様々な観光地がございますので、そういったところでエリア開発を進めていきたいと考えております。
取材者:
これらの事業によって、今後も事業の拡大が期待できると思いますが、M&Aなどの戦略やご計画はございますか?
回答者:
ようやく上場後に、M&A専門の部署を設置し、積極的に活動を始めたところです。従来は、金融機関などからの紹介案件を個別に審査するという受け身の姿勢でしたが、現在は、ターゲットを絞り、長期的な視点で育成しながら、こちらから様々な業者様や金融機関に、具体的な地域や事業についてM&Aを行いたいという意向を伝えている状況です。M&Aは、成長戦略において非常に重要な要素の一つと考えております。
取材者:
既存の事業とのシナジーがある分野を中心に検討されているのですか?それとも、全く新しい事業への展開も視野に入れているのですか?
回答者:
全く新規の事業を否定するものではありませんが、現状としては、先ほど申し上げた既存のセグメントで成長が見込める分野で、M&A可能な案件があれば、積極的に取り組んでいきたいと考えております。
取材者:
株主還元策につきまして、方針などございましたら教えていただけますか?
回答者:
株主還元は、非常に重要な経営課題というふうに考えておりまして、今後しっかり進めてまいりたいと思っております。株主還元に関する具体的な還元水準や方法など、まだ検討を進めている段階ですが、今後、しっかりと検討を進めてまいります。
先日発表しました通り2025年3月期は普通配当3円、上場記念配当2円、合計5円と増配を予定しています。今後、具体的な株主還元策について、しっかりと検討を進めてまいりたいと思います。