取材者: 私どもは初めてお伺いしたときに、とりわけ重視しておりますのが、足元の数字がどうこうというよりは、中長期的な事業戦略や現状、あとはもちろん事業自体の競争優位性、参入障壁がどういったところにあるのかという点でございます。そういったところを理解させていただいた上で、投資検討を進めるというスタンスでございます。貴社の創業のきっかけから現在に至るまでのストーリー、そしてその過程で大切にしてきた思想について、主要な点をかいつまんでお聞かせいただけますでしょうか。特に、貴社のサービスは大変興味深く拝見しております。一方で、参入障壁が比較的低いように感じられる点や、類似サービスも存在する中で、これほどまでに事業を成長させてこられた要因、例えば重要な転換点や判断などがございましたら、ぜひお伺いしたいと存じます。まずは、そのあたりからお話しいただけますでしょうか。
回答者: 承知いたしました。本日はCFOの中尾と、私、総合戦略部の執行役員をしております秋岡の2名でご説明させていただきます。創業からのメンバーではないということはございますが、これまでの経緯についてお話しさせていただきます。当社は会社として2006年にエス株式会社として立ち上げましたが、ラクサス・テクノロジーズとなり、このバッグのシェアリングを始めたのは2015年2月という形になります。創業の経緯としましては、やはりその時代、その前からもそうだと存じますが、大量生産・大量廃棄というところが世の中的に問題になっており、アパレルという産業自体は世界で2番目に廃棄の多い産業だとも言われている中で、「価値あるものをシェアで繋いでいく」、そして「ファッション・アパレルを地球のお荷物にしない」という思いから、シェアリングという言葉も出始めた頃かと存じますが、創業者である児玉がバッグのシェアリングというのを始めたのがスタートでございます。
事業としては、順調にコロナ禍前を含めても2017年、2018年と契約数を含めて拡大をしてきております。
当社のビジネスは、後ほど参入障壁などにもお伝えいたしますが、先行して投資がかかるという点に関しては、バッグの資産をしっかりと確保しながら持つというところは非常に重要な点だと存じますので、その辺りでやはりある時期に来たときにバッグの数が頭打ちになり、契約数が伸び悩んだ時期もございました。そういった経緯があって創業者児玉が、ワールドを選び、ワールドグループに入ったというのが2019年10月という形でございます。
そこから、当然コロナ禍があったので、一時的に外出の機会がなかったため、バッグを持ち歩く機会が少なかったことから、その時期には契約数が少し落ちております。しかし、やはり一番大きかったのが、バッグのしっかりとした投資という部分でワールドの方から、しっかりと投資をいただき、バッグの資産をしっかりと調達できた点でございます。これにより、弊社としても事業サイドではございますが、コロナ禍が明けて、契約数が一気に伸びてきたというビジネスの経緯でございます。
大きなポイントのもう一つとしましては、2023年12月に、シングル契約の価格を6,800円(税抜き)で提供してまいりましたが、9,800円(税抜き)に値上げしたという点です。値上げだけではございませんが、サービス改定に伴う価格改定を2023年12月に行っており、そこから想定はしておりましたが、契約数は少しピークのときよりは落ちているというのが現状でございます。ただし、収益性というのは非常に高く、サブスクリプションの事業(シェアリングビジネス)で収益をしっかりと上げている会社は世界を見てもそんなにないと弊社では考えており、そのポイントとしては弊社の取り扱っているバッグの資産価値が非常に高いという点が挙げられます。これにより、収益体制をしっかり確立してまいりました。
前期、上場させていただきましたが、価格改定とともに、昨年かなり拡大してきたのが、弊社のバッグ資産の販売です。先ほどのストーリーにも少しございますが、最初の頃はどのバッグが良いか分からずに、とにかくブランド数を含めて多くのバッグを調達しておりました。そこからデータが蓄積され、もう何万点と仕入れてきておりますので、どのようなバッグがサブスクリプションに合うのか、またはどのバッグに人気があるのかというのをしっかりと精度を高めており、現状はユーザーの方が欲しいというバッグを調達できているという点が大きなポイントかと存じます。ただその一方で、10年ビジネスをしておりますので、レンタルに適さないバッグはどうしても出てきます。あとは人気がそれほどないというバッグも出てくるため、この辺りの資産を回転させるということで販売などにも力を入れ、昨年は事業が一気に伸びたというところでございます。
ここもよく質問がございますが、弊社の中で、バッグの資産は価値が落ちにくいという特徴がございます。洋服は作って販売された時点に価値が下がる傾向で、シーズンごとに資産価値を見直していくような形になります。しかし、バッグは異なります。当社は8年定額で残価20%という減価償却を用いておりますので、7年、8年経ったバッグでも資産価値を保っているという点がございます。そのため、販売したとしても収益がしっかりと取れるというところが大きなビジネスの特徴かと存じます 。
参入障壁をお伝えいたしますと、他社で今でも事業をされているところはあると存じます。弊社の強み、参入障壁が高いと感じているのは、やはり資産数だと考えております。資産を持ってビジネスを回しているというところが、弊社の強みであるかと存じます。あとはオペレーションやそういったものを自社で全て行っているというところが大きなポイントになるかと存じます。
取材者:もう少しサービスそのものの差別化や訴求についてお伺いできればと存じます。なかなか私など本当論外で、毎月1万円をレンタルするだけにお金を支払うというものが、どういうニーズというか事情に基づいているのか分かりかねる部分がございます。本日参加している2人の女性アナリストに聞いてみたところ、間違いなくニーズ、やはりそのようなサービスに対するニーズがあるのではないかという意見でした。ただできれば、もし可能であれば、本当に必要なときだけレンタルするようなサービスの方が良かったのではないかという意見も出ております。改めて、サブスクリプションという形式で月々同じ金額を支払い続ける中で、1つないし2つのバッグを借り続けるサービスは、どのようなペルソナといいますか、お客様に支持されているのですか。
回答者:どのようなお客様にご利用いただいているのか、もう少し詳しくご説明いたします。年齢層としましては、20代から50代の方と幅広くご利用いただいており、一番中心になってくるのはやはり30代、40代の方が多い傾向にございます。ご年収というのは比較的に世帯年収という部分では高い方が、弊社のアンケートでは多いかと存じます。
ご結婚されていたり、働かれていても、お子様の教育にもお金をかけたいし、ファッションも楽しみたい、様々な会合にももちろん参加したいというときに、色々と取っ替え引っ替えしながらファッションを楽しんだり、所有するのではなくて様々なバッグを取っ替え引っ替え使えるというところがモチベーションになっているのではないかと想定しております。弊社が10年間サービスを提供している中で、このようなお客様もいらっしゃいます。最初のきっかけ自体は結婚式などで、20代の方の新規参入数は多いのですが、短期間の利用で一度利用停止される方もいらっしゃいます。最初は結婚式などに出るときにバッグをレンタルして一度は利用停止するのですが、ご自身のライフステージが変わられ、仕事、もしかしたらご家庭を持ち、ご家族がいてお子様の会合なども含めてですが、ラクサスを利用していたことを思い出し、再度利用を開始されるケースが見られます。また、ユーザー様のインタビューを色々と行いながら聞いていくと、ブランドバッグ自体、全く今まで持ったことがない方とは異なり、やはり知っています、使ったことがある、もしくは定番のバッグは持っていますが、様々なシーンに合わせて仕事に行くとき、遊ぶとき、外出するときなどを含めて、バッグを色々と取っ替え引っ替えしながらファッションを楽しみたいという方が主流になっているかと存じます。
やはり、購入となると、20万円、30万円といった形で一度に大きな投資が出てしまいますが、お貸し出ししているバッグというのは大体中古市場でも20万円、30万円のものが多く、1ヶ月に1回使えば、例えば1年間で240万円から360万円分のバッグが使えるというモチベーションや、そういったマインドがあるかと存じます。
取材者: 今少し出ましたが、若い方で「必要なときだけ利用したい」という方や、一度利用停止をするような、例えば1ヶ月だけ利用して解約するような短期のユーザーはどれくらいいるのですか。
回答者:具体的な割合は申し上げられませんが、弊社が公表している数字で申し上げますと、今までサービスをご利用いただいた方の総数が2025年3月末時点で約18.7万人でございます。その中で、一度利用停止をされた方で、その後継続されていない方からカウントすると、約5人に1人、具体的には21%から22%の方が再開されるという形で、戻ってこられる状況でございます。
ですので、ユーザー様によっては、本当に使いたいときだけ、利用停止から「復活」(弊社では再開をこのように呼んでおります)を賢く使われている方もいらっしゃるとは存じます。
取材者:最初に1万円を支払えば20万円から30万円のバッグが手元に届くとのことですが、悪用しようと思えば、持ち逃げのようなリスクは貴社としてはあると存じます。実際にそのような方というのはどれくらいいるのですか。また、どのようにして防止しているのですか。
回答者: 弊社の参入障壁の一つとして、やはりセキュリティ対策もございます。もちろんバッグの持ち逃げのような経験がゼロではございませんので、そういった意味では入会時に審査を厳しく行っております。例えば100名の方が利用を希望されても、約15名程度は審査が通らず、ご利用をお控えいただいております。
取材者: 当然ではございますが、一定数紛失されたり、盗難に遭われた方はいらっしゃいますが、そちらはご負担いただかないと小規模な事業者であれば、数件のトラブルで経営が傾いてしまう可能性もありますよね。
回答者: おっしゃる通りです。バッグの資産数というのは非常に重要です。今までも同様のビジネスをされている企業様は複数ございますが、やはり資産数における圧倒的な差が一番重要だと考えております。2、3千個のバッグを保有されている企業様はいらっしゃいますが、数万個単位までとなると、弊社が強みを持っている部分かと存じます。あとは常に稼働し続けているという点も挙げられます。
取材者:このビジネスは現在契約数2万人とのことですが、どこまで大きくなる市場だとお考えですか。もし20万人に増えるのであれば、現在の株価は安すぎると言えますが、現実問題として貴社で価格改定前と比較しある程度契約数が減少傾向にあるなど、現状ぐらいのところで頭打ちになりうるビジネスなのか、その辺りが現在全く分からず、貴社のお考えはいかがですか。
回答者:当社の考えとしましては、日本全国の20代から50代の女性の方は約2,900万人いらっしゃいます。その中で、弊社のアプリをダウンロードされている方が約200万人(男性の方ももちろんいらっしゃいますが)という点を見たときに、まだまだダウンロードしていても利用に至っていない方や、まだダウンロードされていない方が多くいらっしゃるという点で、成長の余地は非常に大きいと考えております。ブランドバッグ自体に全く興味がないという方はもちろんいらっしゃいますが、アンケート結果ではやはり半分くらいの方は興味があり、その中に利用経験がある方もいらっしゃると存じます。
そのため、当社はまだ現在が頭打ちとは思っておりませんので、どのように知っていただき、ご利用いただくかという販路の拡大が重要だと考えております。これは広告の販路もそうですし、今期、他社様と組んでシェアする形で現在進めておりますが、お客様基盤を活用いただきながら新規獲得していくことに取り組んでおります。
取材者: なるほど。やはり全体の潜在市場はもっと大きいと。一つのボトルネックは認知度で、したがってやはりマーケティング費用をかけていくのが一つの選択肢ということですね。あとは、価格についてですが、7,000円から1万円に改定するという大きなご判断をされた後なので、すぐに下げることはないかもしれませんが、この1万円という価格がベストなのですか。それとも、価格を下げた方が、マーケットが開くのか、あるいは逆にさらに値上げしても良いのか、貴社のお考えをお聞かせいただけますか。
回答者: 価格改定とサービス改善に伴う改定をした上で、契約数の伸び悩みが当然出ているというところは認識しつつ、当社はマーケティング費用も含めて投資を継続していく方針でございます。価格に関しては、改定を検討する際に、サービスの改善項目も考慮いたしました。例えば、現在当社のサブスクリプションでは、全員の方ではございませんが、通常交換すると、バッグを返却し検品後、新しいバッグをお届けするまでに最大で5日間ほどお客様の手元にバッグがない期間がございました。今回サービス改定をする際に、例えばお支払いをきちんとされているお客様や、バッグをきちんと交換いただいているお客様には、先にバッグを発送し、手元にバッグが届いてから元のバッグを返却していただく「プレミアム交換」というサービスを導入いたしました。これにより、手元にバッグがない期間をなくし、この5日間分の利用もしていただけるようにしております。
現在、ここから価格を下げることは考えておりません。弊社がビジネスを始めたときから、プランが複雑化するとお客様が選びにくくなるという考えから、弊社もシングル9,800円(税抜き)とダブル(2個持ち)の2つのプランのみで提供しております。
取材者:先ほど蓄積したデータの中で、「サブスクリプションに合うバッグ」という言葉がございましたが、サブスクリプションに合うバッグというのは具体的にどのようなものがあるのか、お聞かせいただけますか。
回答者: 言い換えますと、サブスクリプションに合わないバッグというのをデータで見ております。具体的には、損耗が早い、もしくは利用時にリペアが必要になる頻度が高いバッグです。簡単に申し上げますと、キャンバス地のバッグなどはサブスクリプションにはあまり適しません。また、色に関しても淡い色は、差し色として調達することもありますが、当然汚れが目立ちやすく、劣化するのも早いといった傾向もございます。これらは一例ですが、そういったものの仕入れは控えるようにしております。
あとはブランドのトレンドも考慮しております。人気が下降しているブランドのバッグは仕入れを控え、逆に人気が再燃しているブランドのバッグは調達を増やすといったバランスはとっております。
取材者: 在庫の中身は頻繁に入れ替わっているのでしょうか。
回答者:在庫の中身は、年間や毎月で大きく入れ替わるわけではございませんが、調達する個数や販売する個数という点では一定数は入れ替わっております 。昨年は、これまで保有していた資産が多かった部分があるため、前期は販売に力を入れました。委託販売や卸、海外など、どこが一番高く売れるかを検証するためにデータを収集したところもございますが、今期はバッグの資産数もとにかく純増させていくというのを社内的にはターゲットにして、資産数を増やしていくような形にしていこうと考えております。
取材者:サービス自体は10年間のトラックレコードができつつある状態だと存じますが、基本的なモデルとして、例えば20万円で仕入れたバッグを平均何年くらい使用し、8年後の償却後に既にどれもショールームにある2割ぐらいで、どれくらいの売却益が出るのかといった簡単な試算を教えていただけますか。
回答者:当然バッグによっても異なりますので、8年経ってもずっと使用しているものもございます。仕入れを100とした場合に、大体サブスクリプションでの収益は100を確実に超えることができます。そこに販売収益がプラスされるという状況でございます。二次流通業者様ように、仕入れてすぐに棚卸資産として回転させるビジネスとは時間軸が異なりますが、弊社はサブスクリプションでもしっかりと調達価格を超えて、そこにさらに販売収益が加わるという状況でございます。
取材者:かつてのコロナ禍の影響も含めて考えると、極端に言えば、購入時よりも売却時の方が高く売れるような状況もあったりするのでしょうか。
回答者:はい、今でもそのような状況はございます。特に当社では2020年8月から「試用販売」という、お客様がお手持ちのバッグを気に入られた場合に購入できるサービスを展開しております。通常、店舗で試着して購入する場合、数十分の試着で判断することになりますが、実際にはサイズが合わない、重さが気になる、色が落ちやすいといった問題が起こることもございます。しかし、弊社のサービスではシェアリングを通じて1、2ヶ月間使用していただき、「本当に使いたい、状態も良いし、このバッグをそのまま購入できるなら」というお客様に対して、サブスクリプションと同様に分割払いでの販売を行っております。この方法での販売は、非常に高い価格で売却できます。分割払いで手数料もいただいておりません。
取材者:株主優待については、今回新たに導入されたのでしょうか、それとも以前から行われていたのでしょうか。
回答者:株主優待は今年の3月に導入することを決定し、リリース、つまり公開させていただきました。実際には今回の株主優待券は年次報告書などと一緒にお届けするため、株主の方に届くのは7月の頭頃からとなる予定です。
取材者:株主優待を含め120%という数字を見て、少し混乱したのですが、理解が間違っているかもしれません。貴社に現金をお支払いしてサブスクリプションに加入するよりも、株を購入して優待でサービスを利用した方が安いということなのでしょうか。
回答者:当社社は皆様にまずは体験をしていただきたいという思いがあり、先ほど申し上げたユーザーを増やしたいという目的もございます 。投資家の方々に投資をしていただきながら、カスタマーユーザーになっていただくことを見据えております 。その当時、株価が100円、200円と低かった時期もあり、現在と近い株価ではございますが、200円で見ると、株に投資して優待をいただいた方がサービスを割安で利用できることになります。
取材者:良いことのように聞こえますが、逆に経営を圧迫するようなことにはなりませんか。皆が株を買って優待でサービスを利用するようになれば、貴社も困るのではないでしょうか。
回答者:全員がそうなればもちろんそうですが、株主様には男性の方が多いのも事実です。しかし、そのパートナーの方まで利用OKとしているのも、ある一定数まではそのような形で利用していただいても、ある意味、本当に全員がそうなったとしても、利用料が下がってしまうことにはなりますが、それでも継続利用があれば当社のビジネスモデルとして、収益は保てると考えております。
取材者:最後に、仮に契約数が現在の2万人から例えば3万人になるというのは現実的だと存じますが、もしそうであれば、どれくらいの時間軸で株主として期待して良いものでしょうか。
回答者:時間軸として、弊社はもちろんビジネスをしているので、いち早く到達したいと考えております。現在は、今回広告費への投資も一つですし、新しく他社のお客様の基盤と協業をしながら増やしていくということを進めております。このような契約数が増えるペースは、もちろん顧客基盤によって異なりますが、例えば500名が入会する、500名が10件契約するといった積み上げがうまくいけば、3万人というのはかなり早い段階で到達していきたいと考えている数字です。
取材者:株が絶対的に買いやすいというか、現在の収益性に照らしても十分拡大すると考えております。恐らく、一度サブスクリプションで頭打ちになったサービスが再度伸びるという姿は、私も含め多くの人が見たことがございません。良くも悪くも、その期待を貴社が裏切ってくれるかどうかに投資が動き、儲かるかどうかがかかっている、という趣旨の質問でした。
回答者:おっしゃる通りでございます。当社も今期、決算を含めて今期の趣旨もそうですが、とにかく成長することにこだわって事業を進めていきたいと考えております 。