20250319
Q:成長戦略のポイント(今後の取り組みやトピックスなどを含む)はなんでしょうか?
A:当社の成長戦略の要点は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心に据え、マーケティングソリューション領域をその基盤として展開することにあります。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)では、ニッチトップ戦略を基本方針とし、SNSマーケティングで培ったノウハウやデータを活用し、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを積極的に展開してまいります。
具体的には、自社ブランドの創出に加え、M&Aを通じてメーカー企業が持つ優れた製品や技術をブランド化し、収益性の向上を目指します。M&Aにおいては、事業承継型のメーカー企業を中心に、低いマルチプルでの買収を行い、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とのシナジーによって企業価値の最大化を図ります。
マーケティングソリューション領域は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を支える重要な要素であり、多種多様な業種の顧客に対するマーケティング支援を通じて、ノウハウやデータを蓄積し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)の成長を加速させる役割を担います。
今後は、これらの事業戦略を推進していく上で、IR活動を強化し、当社の成長戦略や事業内容を投資家の皆様に正確に理解していただくための取り組みを積極的に行ってまいります。
Q:業績の増減要因をご説明ください。
A:当社の業績は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とマーケティングソリューション領域の二つの事業によって構成されています。
ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)においては、既存ブランドの成長に加え、M&Aによる新規ブランドの獲得が業績拡大の主な要因です。特に、「MiiS」ブランドでは、新商品がヒットし、全国展開を実現するなど、高い成長率を維持しております。今後も、マーケティングチャネルから逆算した商品開発を推進し、他のブランドにおいても同様の成功事例を創出することで、更なる成長を目指します。
マーケティングソリューション領域においては、昨年の上半期に営業人材の確保がうまくいかず、業績が一時的に低迷しましたが、採用戦略や人事制度の見直しなどのテコ入れを行った結果、回復傾向にあります。今後は、不採算案件の入れ替えを進め、収益性の高いナショナルクライアント案件に注力することで、更なる収益性の向上を目指します。
Q:株主還元の方針をご説明ください?
A:配当については、原則として株主の皆様への利益還元は重要であると考えておりますが、現時点では利益水準が低いため、配当実施よりも成長投資を優先すべきであると判断しております。将来的に、利益水準が十分に向上した際には、配当実施を積極的に検討してまいります。
自社株買いについては、株価が著しく過小評価されていると判断される場合に、機動的な資本政策の一つとして検討する可能性があります。
取材者:
まず初めに、貴社のホームページや決算説明資料などを拝見させていただきましたが、改めて貴社のビジネスモデルや事業内容につきまして、特徴の整理なども含めてご説明いただけますでしょうか。
回答者:
はい。それでは、こちらの決算説明資料をご参照いただけますでしょうか。
取材者:
はい、手元にございます。
回答者:
では、当社のビジネスモデルとしましては、5ページ目に記載がございます。当社は元々、SNSを中心としたマーケティング支援事業を創業の基盤としており、そういったマーケティングで収集するデータを多角的に活用していくという考えで事業を展開してまいりました。現在、最も成長の中心となっているのが、SNS内に蓄積されるマーケティングデータやノウハウを活用したブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)です。
具体的にどのようなブランドプロデュースを手掛けているかと申しますと、当社はニッチトップ戦略を基本方針としております。SNSを中心としたマーケティングと親和性が高いのは、不特定多数の方に画一的な情報を発信するのではなく、特定のコミュニティ、例えば美容に関心の高いコミュニティにおいては、美容の情報が拡散されていくという手法を活用したブランドプロデュースです。この点が当社の強みとなっております。
具体的な事例としましては、子会社のWinCを通じて、オーラル美容ブランドである「MiiS」の展開や、買収した「MOVE」という電動自転車ブランドの展開など、複数のブランドを手掛けております。
また、今後のブランド展開における方針としましては、自社でブランドを創出するだけでなく、昨年、松村商店という、40年の歴史を持つキッズティーンズ向けメーカーを買収しました。同社は、雑貨や子供向けのカバン、学生カバンなどを製造しているメーカーです。メーカー事業を展開されている企業様は、優れた製品を保有しているものの、必ずしもブランド化に成功しているとは言えないケースや、自社で魅力的なIPを保有しているにもかかわらず、十分に活用できていないケースが散見されます。例えば、松村商店は「ロコネイル」という学生カバンのIPを保有しておりましたが、買収後に当社がブランドプロデュースを行うことで、売上を拡大することができました。このように、メーカー企業のM&Aを通じて、優れた製品や技術をブランド化し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)に繋げていくという手法を、今後も積極的に展開してまいります。
これらの事業を支えているのが、マーケティングソリューション領域です。SNSを中心としたマーケティング支援を総合的に展開しており、インフルエンサーPRからアカウント運用まで、横断的に行っております。
本質は、マーケティングソリューション領域が成長領域というよりは、ここで多種多様な業種の顧客のマーケティング支援を通じて、様々なマーケティングのノウハウや、自社ツールを通じて集めてくるデータを活用し、成長のドライバーとしてブランドのプロデュース、自社ブランドを創出していくこと。そしてメーカーをM&Aし、ブランド化していく、ここが当社の成長の柱となっています。
現在の売上構成は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とマーケティングソリューション領域がほぼ半々となっておりますが、成長率を見ると、今期の通期予想では、マーケティングソリューション領域が昨対比で横ばいであるのに対し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)は97%増と、高い成長率を示しております。このことからも、当社がブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を軸とした成長戦略を推進していることがお分かりいただけるかと存じます。
以上が、当社の事業モデルの概要となります。補足事項としましては、一般的にブランド事業というと、SNSマーケティングのノウハウやデータを活用したEC事業というイメージを持たれるかもしれませんが、当社の販売チャネルはECに限定されません。バラエティストアやドラッグストアなどの卸売店舗も展開しております。また、「MiiS」の事例では、オーラル美容というニッチ市場で成長している市場において、歯医者やクリニックのプロデュースも手掛けております。「MOVE」も、今月末に恵比寿に店舗をオープンするほか、型式認定を取得した4月以降は卸売展開も予定しております。このように、ECだけでなく、多様な販売チャネルを活用している点が、当社のビジネスモデルの特徴です。
取材者:
マーケティングソリューション領域で培ったノウハウやデータを、自社ブランドに適用し、拡販していくという理解でよろしいでしょうか。
回答者:
拡販というよりは、ブランドの成長に活用していく、伸ばしていくということです。マーケティングソリューション領域で得たノウハウに加え、インフルエンサーとの関係構築など、マーケティングにおける様々なアセットをブランドプロデュースに活用することで、外注に依存せず、自社で効果的な広告展開を行い、高い利益率を実現していることも強みになります。
取材者:
貴社のブランド戦略におけるニッチトップ戦略について、もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。
回答者:
はい。ニッチトップ戦略は、三つのポイントがございます。まず、ニッチ市場とは、単に狭い市場を意味するのではなく、大きなマス市場の中に存在する、成長性の高い市場を指します。
例えば、「MiiS」の事例でご説明しますと、国内のオーラルケア市場は4,000億円規模ですが、大手メーカーが展開する歯磨き粉などが中心であり、市場全体の成長は限定的です。しかし、マウスウォッシュやホワイトニングなど、美容の要素を取り入れたオーラル美容市場は、高い成長が見込まれます。当社はこのように、マス市場の中に存在する、成長性の高いニッチ市場を見つけ出すことを重視しています。
さらに、そのニッチ市場において、No.1のポジションを確立できる可能性が高い市場を選定します。マス市場や成長性の高いニッチ市場であっても、既に競合他社が大きなシェアを占めている市場への参入は避け、当社がNo.1を目指せる市場に注力します。
この戦略はM&A戦略というよりは、ブランドプロデュース戦略と考えていただいて結構です。
このブランドプロデュース戦略に取り組んできた理由としましては、7年8年と培ってきたSNSマーケティング支援を行ってきたノウハウを最も効果的に活用できるのが、ニッチトップ市場であるという点が挙げられます。SNSにおける情報発信は、不特定多数ではなく、特定のコミュニティに属する人々にとって有益な情報を提供することが重要です。美容に関心の高い20代女性の間で話題になるような情報発信が成功の鍵となります。ニッチトップ戦略は、当社のマーケティングアセットとの親和性が非常に高いと言えます。
また、マス市場で多額の広告費を投じるよりも、まずはニッチ市場で確固たる地位を築くことが重要です。ニッチ市場で成功を収めたブランドは、結果的にマス市場に拡大する可能性も秘めています。例えば、「MiiS」の事例では、オーラル美容というニッチ市場がマス市場へと成長していくことが期待できます。
図を用いてご説明しますと、マスで停滞している市場の中に、成長性の高いニッチ市場を探してきます。ニッチ市場で成功を収めたブランドは、マス市場へと成長していく可能性がありますが、最初からマス市場を目指すことは、広告費の負担が大きく、競争も激しいため、リスクが高いと言えます。
M&Aをしてきたブランドの事例でご説明しますと、松村商店は、キッズティーン向けの雑貨メーカーであり、市場としては停滞していると言えます。しかし、同社が保有する「ロコネイル」のようなSNS発のブランドマーケティングや、IPとの掛け合わせによるブランド展開は、大きな成長の可能性を秘めています。キッズティーン向けの雑貨とIPの組み合わせは、非常に相性が良いと考えております。このように、当社は停滞しているマス市場の中に存在する成長性を見出し、ブランドプロデュースを行うことで、メーカー企業の収益性を高めることを目指しています。
メーカー企業は、卸売店舗からの要望に応じた製品と、自社で企画した製品の2種類を展開しているケースが多いですが、自社企画製品の方が粗利率が高いという特徴があります。メーカー企業を買収し、ブランドプロデュースを行うことで、低いマルチプルでの買収が可能となり、高いマルチプルでのブランド事業展開による収益性の向上が期待できます。松村商店の事例では、一年分の営業利益より少ないのれんに抑えられました。今後も、事業承継型のメーカー企業を買収し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)に繋げていくというM&A戦略を積極的に展開してまいります。
「MOVE」の事例は、ニッチ成長市場をターゲットとした買収ケースですが、自社でブランドを育成するよりも、買収する方が効率的であると判断した場合に実行する戦略です。
ただし、「MOVE」のようなケースは、今後はなかなかないと思います。なぜなら、「MOVE」は、利益が4,500万円に対して、買収額が2.2億円と、比較的割安な価格で買収できましたが、このようなフェアバリュエーションのニッチな成長ブランドは、ベンチャーキャピタルなどが投資しているケースが多く、買収価格が高騰している傾向にあるからです。一方で、松村商店のような事業承継型のメーカー企業は、マルチプルが低く、優れた製品や販路を有しているにもかかわらず、自社ブランド化によって大きな成長が見込める可能性があります。このようなメーカー企業のM&Aを、今後も積極的に展開していくことが、当社のM&A戦略の中心となります。
取材者:
貴社が手掛ける商品は、美容ブランドから電動自転車ブランドまで多岐に渡りますが、特定の分野に絞らず、幅広い分野にアンテナを張っているという理解でよろしいでしょうか。
回答者:
はい、その通りです。ニッチ市場で成長を目指すという戦略において、特定の分野に限定してしまうと、企業としての成長の可能性が狭まってしまうと考えています。マス市場での成長を目指すという考え方もありますが、当社は数億円から数十億円規模のブランドを、複数創出していくという成長戦略を掲げております。そのため、特定の分野に限定する必要はないと考えております。
また、マーケティングや商品企画などのノウハウは、ある程度共通化できる部分があります。チームの構築方法なども、少人数で効率的に事業を成長させることが可能です。「MiiS」と「MOVE」では、異なる体制で事業を展開していますが、効率化できる部分は共通していたりします。そのため、成長の可能性を考慮すると、特定の分野に限定する必要はないと考えております。
取材者:
貴社の創業の経緯について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
はい。創業の経緯ですね。私自身、前職ではMomentum株式会社というアドテクノロジー企業を経営しており、Syn.ホールディングスというKDDIのグループ会社に売却しました。当時、私が手掛けていたのは、アドベリフィケーションという、Web広告が不適切な場所に掲載されないようにするニッチなツールでした。例えば、航空会社の広告が航空機事故に関する記事に掲載されないようにする自動制御システムです。この事業を展開する中で、消費者の動きが、Webサイトの検索からアプリでの情報収集へと大きくシフトしていることを痛感しました。しかし、広告主の方はまだWeb側に軸足を置いており、需要と供給のギャップを感じていました。一般ユーザーが発信する情報の価値が向上していく中で、ライフスタイルの変化に対応していく必要性を感じていました。
具体的な例を挙げますと、ライスカレーという社名の由来は、共同創業者のひとりが画家であるゴッホを好んでいたことにあります。ゴッホをGoogleで検索すると、画家の情報が上位に表示されますが、Instagramで検索すると、カレーの写真が多く表示されるという現象がありました。これは、SEOでは上位表示されないような、マニア向けのカレー店「ゴッホ」が存在していたというエピソードに過ぎませんが、アルゴリズムが表示する情報よりも、一般ユーザーが発信する口コミや、インフルエンサーのような人々が発信する情報の方が、価値が高いということを示唆しています。メディアが多様化し、個人が情報を発信する時代において、そのような情報を活用したビジネスを展開することに、Web側にいたからこそ、大きな可能性を感じたことが、創業のきっかけとなりました。
取材者:
貴社が活用するインフルエンサーは、どのような属性の方が多いのでしょうか。
回答者:
インフルエンサーの属性は、事業によって異なります。例えば、「MiiS」であれば美容系のインフルエンサーが中心ですし、「MOVE」であれば、若い富裕層を多くフォロワーに持つインフルエンサーが中心となります。ただし、当社はインフルエンサーのキャスティング能力に特化しているわけではありません。インフルエンサーマーケティングは、あくまでマーケティング手段の一つとして捉えており、インフルエンサーマーケティング会社ではありません。
取材者:
昨年のタイミングでの上場の目的についてお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
成長戦略を推進していく上で、非上場企業として実行できる施策には限界があると感じていました。特に、潤沢な資金を調達し、M&Aによって事業を拡大していくという戦略は、私が元々ゴールドマン・サックスに在籍していたこともあり、重要な要素であると考えていました。当時IPOを検討していたのは、マーケティングソリューション領域の会社を買収するためでしたが、いずれにしても、M&Aによる成長戦略を推進していくためには、上場企業の方が有利であると判断しました。実際に、松村商店は9億円で買収することができましたが、その際、三菱UFJ銀行と、りそな銀行から7億円と2億円の融資を受けることができたのは、上場企業であったからこそ実現できたと考えています。未上場企業では、同様の条件での融資は難しかったでしょう。
取材者:
次に、今期の業績についてお伺いします。売上高は過去最高を記録しているとのことですが、これは新規M&Aによる貢献に加え、既存事業も成長していることによるものと理解してよろしいでしょうか。既存事業が成長している要因について、お聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
「MiiS」ブランドは、昨対比126%の成長を達成しておりますが、これは、TikTok向けに開発した「mm flora*」という8月に出した新商品がヒットしたことが大きな要因です。300万回再生を記録するなど、大きな反響があり、全国展開も実現しました。
今後、「MiiS」ブランドだけでなく、他のブランドにおいても、「mm flora*」のような成功事例を再現していきたいと思います。
取材者:
他のブランドにおいても、同様の手法を活用することで、成長が期待できるということですね。
回答者:
はい。TikTokという媒体に限らず、動画を活用したマーケティングは、「MOVE」においても活用できると考えております。今後、新商品を展開していく上で、マーケティングチャネルから逆算した商品開発は、再現性のある成長戦略として確立できると考えております。
取材者:
先ほど、人員を増やさずとも効率的な成長が可能であるというお話がありましたが、採用戦略や人材育成方針についてお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
はい。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)においては、ブランド数を拡大していく上で、ブランドマネージャーのような人材の育成が不可欠となります。例えば、「MiiS」ブランドで商品マーケティングを担当していた人材が、別のブランドのプロデューサー候補として活躍するケースがあります。「MOVE」のマーケティングを担当している人材は、元々「MiiS」を担当し、その後、別のブランドを担当しており、「MOVE」のM&A後に抜擢されました。このように、ブランド内で人材を育成し、M&Aによって獲得したブランドにも活用していくという人材育成の仕組みを構築し始めています。
人員を増やさなくても効率的な成長が可能であると申し上げたのは、ブランド数を拡大すれば当然人員を増やす必要はありますが、「MiiS」ブランド単体で見ると、昨対比126%の成長を達成しているにもかかわらず、人員は1名程度しか増えていないということです。これは、当社に限った話ではなく、ブランド事業を展開している企業であれば、売上が倍になっても、必要な人員は大きく変わらないというケースが一般的です。
一方で、マーケティングソリューション領域においては、一般的な採用戦略を採用しております。昨年の上半期は業績が低迷しましたが、その要因の一つとして、営業人材の確保がうまくいかなかったことが挙げられます。そのため、採用方法や給与体系などを見直し、テコ入れを行いました。その結果、第3四半期ではある程度改善が見られ、マーケティングソリューション領域も回復傾向にあります。
また、人員を増やしすぎてしまった結果、不採算案件が増えてしまったというのも事実です。IPOの準備段階において、どうしても目先の売上を重視してしまう傾向があり、LTV(顧客生涯価値)が低い案件を増やしてしまったという状況がありました。例えば、月額30万円の案件であっても、将来的に100万円になる可能性がある案件と、30万円にしかならない案件がある場合、本来であれば将来性のある案件を選択すべきなのに、30万円にしかならない案件の数を増やしてしまっていた、という状況がありました。現在は不採算案件の入れ替えを進めています。
来期は、マーケティングソリューション領域においては、そんなに売り上げが伸びる予想にはなりませんが、その利益を作る人間の数はコンパクトになっていくという方向性で、利益は成長していくというイメージです。
セールスミックスを改善して、それに合わせて内部、人間の配置を変えていくイメージです。具体的には、セールスミックスの案件は、小さい案件を切ってナショナルクライアント案件に寄せていっております。
取材者:
ブランド数の目標値はございますか?
回答者:
単発ブランドの話で言いますと、今あるブランドですと、市場の1%というのが一つのターゲットになっております。例えば、「MiiS」であれば、オーラル市場4,000億円の1%、40億円規模の売上高を5年以内に目指したいと思います。
「MOVE」であれば、大体1,000億円規模の電動アシスト自転車の市場規模の中で、1%であれば10億円規模になります。何かそういった形で、まず市場の1%を目指しましょうという目標を掲げています。我々がニッチグロースと呼んでいる市場で、そのくらいのシェアを獲得していかなければならないと考えています。今後のM&Aについてですが、松村商店モデルは非常に良いモデルであると考えており、来期以降もM&Aは成長戦略にも組み込んでいます。ただし、M&Aの件数については、具体的なガイダンスは出さない予定です。しかし、目指す方向性としては、ある程度、有効ブランドのような形になっているブランドですとか、メーカーというのが、
10個程度、また、1ブランド当たりの平均売上が10億円だとすると、それが10個あれば100億円規模になります。あるいは、平均売上が7億円規模であれば、それが15個あれば100億円規模になる、というような規模感のところを少なくとも5年ほどで達成できるのではないかと考えています。ただ、私としてはっきりガイダンスは明確にはまだ出さないという状況です。
取材者:
株主還元策につきまして、方針などをお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
配当を出すという部分については、私自身は比較的ポジティブに捉えている人間なので、配当を出すことは良いと考えています。まず、原則のスタンスとしては、配当は出すべきだという考えです。ただ、まだ利益が低い状態で配当を出すよりも、他の会社の買収に投資すべきだという話になると思います。まだ当社はこの程度の利益規模、数億円程度の規模感であれば、配当を出すのは時期尚早だと考えています。しかし、例えば利益が20億円、30億円と出てきたときには、それでも配当するべきではないという考え方もあるのは理解できますが、私としては比較的配当した方が良いと考えているタイプの経営者です。
もう一つ、自社株買いについては、ある程度手元に現金があって、明らかにこの株価水準は不当であると経営陣が判断するのであれば、実施する可能性があります。
取材者:
業績に関わらないトピックス的なものが何かございましたら、お聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
業績に関わらないトピックスとしましては、IRの進め方という点があります。現在の当社の成長戦略は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心とし、マーケティングソリューション領域がそれを下支えするという構造です。マーケティングソリューション領域は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を支えるノウハウであり、キャッシュを生み出す源泉であるという位置付けです。しかし、この構造は、現在のホームページを見ても全く伝わらないと思います。ようやく、私自身がこのIRで話すようになってきて、最近株価が少しずつ良くなってきたのも、私自身が直接IR対応をしているという部分が影響していると考えています。この、リブランディングのような取り組みが必要だと考えています。要するに、現在のマーケティング支援の会社から、ブランドプロデュースの会社に変わるというリブランディングです。このリブランディングに関しては、もっとIRなどの見せ方も含めて、しっかりとやっていかなければならないと考えていますし、情報の発信量も増やしていく必要があると考えています。
取材者:
本日上場されてから、機関投資家様とのミーティングの数というのはいかがでしょうか。
回答者:
もちろん、上場した当初はミーティングもあったかと思いますが。株価が不調だったこともあり、機関投資家とのミーティングは、その後は多くはありませんでした。ゼロではありませんが、あまり多くはなかったというのが現状です。しかし、第3四半期の決算発表をして、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心にします、松村商店のM&Aがうまくいっています、という情報を開示してからは、一気に取材が増えました。まだ、当社の規模が小さいので、大型の投資家からの注目はこれからだと思いますが、先日は海外の機関投資家からの取材が入ったりと、手応えを感じています。
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ビジネスモデルや事業内容
同社は、株式会社ライスカレー及び連結子会社3社(株式会社WinC、株式会社松村商店及びMOVE株式会社)により構成されており、インターネットコミュニティ領域において事業を展開している。インターネットコミュニティとはSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をはじめとしたインターネットのアプリケーションやサービスを通じて共通の関心分野、価値観や目的を持った利用者が集まって持続的に相互作用する場を指す。
インターネットコミュニティ領域におけるマーケティング支援事業を基盤とし、マーケティングで収集したデータを活用するブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心としている。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)では、ニッチトップ戦略を基本方針とし、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを展開している点が特徴である。また、自社ブランドの創出に加え、M&Aを通じてメーカー企業の優れた製品や技術をブランド化し、収益性の向上を目指している。これらの事業を支えるのが、多種多様な業種の顧客に対するマーケティング支援を行うマーケティングソリューション領域である。
特徴や強み
同社の強みは、SNSマーケティングで培ったノウハウやデータを活用し、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを展開する点である。また、マーケティングソリューション領域で得たノウハウやインフルエンサーとの関係構築などのマーケティングにおける様々なアセットをブランドプロデュースに活用することで、効果的な広告展開と高い利益率を実現している。
成長戦略
同社の成長戦略の要点は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心に据え、マーケティングソリューション領域をその基盤として展開することである。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)では、ニッチトップ戦略を基本方針とし、SNSマーケティングで培ったノウハウやデータを活用し、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを積極的に展開する。具体的には、自社ブランドの創出に加え、M&Aを通じてメーカー企業が持つ優れた製品や技術をブランド化し、収益性の向上を目指す。
ニッチトップ戦略
ニッチトップ戦略は、成長性の高いニッチ市場でNo.1のポジションを確立することを目指す戦略である。ニッチ市場とは、大きなマス市場の中に存在する、成長性の高い市場を指し、同社は、マス市場ではなく、成長性の高いニッチ市場で成功を収めることを重視している。
M&A戦略
同社のM&A戦略は、事業承継型のメーカー企業を中心に、低いマルチプルでの買収を行い、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とのシナジーによって企業価値の最大化を図ることを目指す。メーカー企業の優れた製品や技術をブランド化することで、収益性の向上を図る。
創業の経緯と転機となった出来事
同社は、代表取締役の大久保氏が前職でアドテクノロジー企業を経営していた際に、消費者の動きがWebサイトの検索からアプリでの情報収集へとシフトしていることを痛感したことが創業のきっかけである。一般ユーザーが発信する情報の価値が向上していく中で、そのような情報を活用したビジネスを展開することに可能性を感じ、創業に至った。
直近の業績
「MiiS」ブランドは、新商品がヒットし、全国展開を実現するなど、高い成長率を維持している。マーケティングソリューション領域は、一時的に業績が低迷したが、採用戦略や人事制度の見直しなどのテコ入れを行った結果、回復傾向にある。
株主還元策
配当については、原則として株主への利益還元は重要と考えているが、現時点では利益水準が低いため、配当実施よりも成長投資を優先する方針である。将来的に利益水準が十分に向上した際には、配当実施を積極的に検討する。自社株買いについては、株価が著しく過小評価されていると判断される場合に、機動的な資本政策の一つとして検討する可能性がある。
代表取締役 大久保遼様

(株)ライスカレー
東証GRT 195A
決算:3月末日
Q:成長戦略のポイント(今後の取り組みやトピックスなどを含む)はなんでしょうか?
A:当社の成長戦略の要点は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心に据え、マーケティングソリューション領域をその基盤として展開することにあります。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)では、ニッチトップ戦略を基本方針とし、SNSマーケティングで培ったノウハウやデータを活用し、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを積極的に展開してまいります。
具体的には、自社ブランドの創出に加え、M&Aを通じてメーカー企業が持つ優れた製品や技術をブランド化し、収益性の向上を目指します。M&Aにおいては、事業承継型のメーカー企業を中心に、低いマルチプルでの買収を行い、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とのシナジーによって企業価値の最大化を図ります。
マーケティングソリューション領域は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を支える重要な要素であり、多種多様な業種の顧客に対するマーケティング支援を通じて、ノウハウやデータを蓄積し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)の成長を加速させる役割を担います。
今後は、これらの事業戦略を推進していく上で、IR活動を強化し、当社の成長戦略や事業内容を投資家の皆様に正確に理解していただくための取り組みを積極的に行ってまいります。
Q:業績の増減要因をご説明ください。
A:当社の業績は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とマーケティングソリューション領域の二つの事業によって構成されています。
ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)においては、既存ブランドの成長に加え、M&Aによる新規ブランドの獲得が業績拡大の主な要因です。特に、「MiiS」ブランドでは、新商品がヒットし、全国展開を実現するなど、高い成長率を維持しております。今後も、マーケティングチャネルから逆算した商品開発を推進し、他のブランドにおいても同様の成功事例を創出することで、更なる成長を目指します。
マーケティングソリューション領域においては、昨年の上半期に営業人材の確保がうまくいかず、業績が一時的に低迷しましたが、採用戦略や人事制度の見直しなどのテコ入れを行った結果、回復傾向にあります。今後は、不採算案件の入れ替えを進め、収益性の高いナショナルクライアント案件に注力することで、更なる収益性の向上を目指します。
Q:株主還元の方針をご説明ください?
A:配当については、原則として株主の皆様への利益還元は重要であると考えておりますが、現時点では利益水準が低いため、配当実施よりも成長投資を優先すべきであると判断しております。将来的に、利益水準が十分に向上した際には、配当実施を積極的に検討してまいります。
自社株買いについては、株価が著しく過小評価されていると判断される場合に、機動的な資本政策の一つとして検討する可能性があります。
取材者:
まず初めに、貴社のホームページや決算説明資料などを拝見させていただきましたが、改めて貴社のビジネスモデルや事業内容につきまして、特徴の整理なども含めてご説明いただけますでしょうか。
回答者:
はい。それでは、こちらの決算説明資料をご参照いただけますでしょうか。
取材者:
はい、手元にございます。
回答者:
では、当社のビジネスモデルとしましては、5ページ目に記載がございます。当社は元々、SNSを中心としたマーケティング支援事業を創業の基盤としており、そういったマーケティングで収集するデータを多角的に活用していくという考えで事業を展開してまいりました。現在、最も成長の中心となっているのが、SNS内に蓄積されるマーケティングデータやノウハウを活用したブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)です。
具体的にどのようなブランドプロデュースを手掛けているかと申しますと、当社はニッチトップ戦略を基本方針としております。SNSを中心としたマーケティングと親和性が高いのは、不特定多数の方に画一的な情報を発信するのではなく、特定のコミュニティ、例えば美容に関心の高いコミュニティにおいては、美容の情報が拡散されていくという手法を活用したブランドプロデュースです。この点が当社の強みとなっております。
具体的な事例としましては、子会社のWinCを通じて、オーラル美容ブランドである「MiiS」の展開や、買収した「MOVE」という電動自転車ブランドの展開など、複数のブランドを手掛けております。
また、今後のブランド展開における方針としましては、自社でブランドを創出するだけでなく、昨年、松村商店という、40年の歴史を持つキッズティーンズ向けメーカーを買収しました。同社は、雑貨や子供向けのカバン、学生カバンなどを製造しているメーカーです。メーカー事業を展開されている企業様は、優れた製品を保有しているものの、必ずしもブランド化に成功しているとは言えないケースや、自社で魅力的なIPを保有しているにもかかわらず、十分に活用できていないケースが散見されます。例えば、松村商店は「ロコネイル」という学生カバンのIPを保有しておりましたが、買収後に当社がブランドプロデュースを行うことで、売上を拡大することができました。このように、メーカー企業のM&Aを通じて、優れた製品や技術をブランド化し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)に繋げていくという手法を、今後も積極的に展開してまいります。
これらの事業を支えているのが、マーケティングソリューション領域です。SNSを中心としたマーケティング支援を総合的に展開しており、インフルエンサーPRからアカウント運用まで、横断的に行っております。
本質は、マーケティングソリューション領域が成長領域というよりは、ここで多種多様な業種の顧客のマーケティング支援を通じて、様々なマーケティングのノウハウや、自社ツールを通じて集めてくるデータを活用し、成長のドライバーとしてブランドのプロデュース、自社ブランドを創出していくこと。そしてメーカーをM&Aし、ブランド化していく、ここが当社の成長の柱となっています。
現在の売上構成は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とマーケティングソリューション領域がほぼ半々となっておりますが、成長率を見ると、今期の通期予想では、マーケティングソリューション領域が昨対比で横ばいであるのに対し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)は97%増と、高い成長率を示しております。このことからも、当社がブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を軸とした成長戦略を推進していることがお分かりいただけるかと存じます。
以上が、当社の事業モデルの概要となります。補足事項としましては、一般的にブランド事業というと、SNSマーケティングのノウハウやデータを活用したEC事業というイメージを持たれるかもしれませんが、当社の販売チャネルはECに限定されません。バラエティストアやドラッグストアなどの卸売店舗も展開しております。また、「MiiS」の事例では、オーラル美容というニッチ市場で成長している市場において、歯医者やクリニックのプロデュースも手掛けております。「MOVE」も、今月末に恵比寿に店舗をオープンするほか、型式認定を取得した4月以降は卸売展開も予定しております。このように、ECだけでなく、多様な販売チャネルを活用している点が、当社のビジネスモデルの特徴です。
取材者:
マーケティングソリューション領域で培ったノウハウやデータを、自社ブランドに適用し、拡販していくという理解でよろしいでしょうか。
回答者:
拡販というよりは、ブランドの成長に活用していく、伸ばしていくということです。マーケティングソリューション領域で得たノウハウに加え、インフルエンサーとの関係構築など、マーケティングにおける様々なアセットをブランドプロデュースに活用することで、外注に依存せず、自社で効果的な広告展開を行い、高い利益率を実現していることも強みになります。
取材者:
貴社のブランド戦略におけるニッチトップ戦略について、もう少し詳しくご説明いただけますでしょうか。
回答者:
はい。ニッチトップ戦略は、三つのポイントがございます。まず、ニッチ市場とは、単に狭い市場を意味するのではなく、大きなマス市場の中に存在する、成長性の高い市場を指します。
例えば、「MiiS」の事例でご説明しますと、国内のオーラルケア市場は4,000億円規模ですが、大手メーカーが展開する歯磨き粉などが中心であり、市場全体の成長は限定的です。しかし、マウスウォッシュやホワイトニングなど、美容の要素を取り入れたオーラル美容市場は、高い成長が見込まれます。当社はこのように、マス市場の中に存在する、成長性の高いニッチ市場を見つけ出すことを重視しています。
さらに、そのニッチ市場において、No.1のポジションを確立できる可能性が高い市場を選定します。マス市場や成長性の高いニッチ市場であっても、既に競合他社が大きなシェアを占めている市場への参入は避け、当社がNo.1を目指せる市場に注力します。
この戦略はM&A戦略というよりは、ブランドプロデュース戦略と考えていただいて結構です。
このブランドプロデュース戦略に取り組んできた理由としましては、7年8年と培ってきたSNSマーケティング支援を行ってきたノウハウを最も効果的に活用できるのが、ニッチトップ市場であるという点が挙げられます。SNSにおける情報発信は、不特定多数ではなく、特定のコミュニティに属する人々にとって有益な情報を提供することが重要です。美容に関心の高い20代女性の間で話題になるような情報発信が成功の鍵となります。ニッチトップ戦略は、当社のマーケティングアセットとの親和性が非常に高いと言えます。
また、マス市場で多額の広告費を投じるよりも、まずはニッチ市場で確固たる地位を築くことが重要です。ニッチ市場で成功を収めたブランドは、結果的にマス市場に拡大する可能性も秘めています。例えば、「MiiS」の事例では、オーラル美容というニッチ市場がマス市場へと成長していくことが期待できます。
図を用いてご説明しますと、マスで停滞している市場の中に、成長性の高いニッチ市場を探してきます。ニッチ市場で成功を収めたブランドは、マス市場へと成長していく可能性がありますが、最初からマス市場を目指すことは、広告費の負担が大きく、競争も激しいため、リスクが高いと言えます。
M&Aをしてきたブランドの事例でご説明しますと、松村商店は、キッズティーン向けの雑貨メーカーであり、市場としては停滞していると言えます。しかし、同社が保有する「ロコネイル」のようなSNS発のブランドマーケティングや、IPとの掛け合わせによるブランド展開は、大きな成長の可能性を秘めています。キッズティーン向けの雑貨とIPの組み合わせは、非常に相性が良いと考えております。このように、当社は停滞しているマス市場の中に存在する成長性を見出し、ブランドプロデュースを行うことで、メーカー企業の収益性を高めることを目指しています。
メーカー企業は、卸売店舗からの要望に応じた製品と、自社で企画した製品の2種類を展開しているケースが多いですが、自社企画製品の方が粗利率が高いという特徴があります。メーカー企業を買収し、ブランドプロデュースを行うことで、低いマルチプルでの買収が可能となり、高いマルチプルでのブランド事業展開による収益性の向上が期待できます。松村商店の事例では、一年分の営業利益より少ないのれんに抑えられました。今後も、事業承継型のメーカー企業を買収し、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)に繋げていくというM&A戦略を積極的に展開してまいります。
「MOVE」の事例は、ニッチ成長市場をターゲットとした買収ケースですが、自社でブランドを育成するよりも、買収する方が効率的であると判断した場合に実行する戦略です。
ただし、「MOVE」のようなケースは、今後はなかなかないと思います。なぜなら、「MOVE」は、利益が4,500万円に対して、買収額が2.2億円と、比較的割安な価格で買収できましたが、このようなフェアバリュエーションのニッチな成長ブランドは、ベンチャーキャピタルなどが投資しているケースが多く、買収価格が高騰している傾向にあるからです。一方で、松村商店のような事業承継型のメーカー企業は、マルチプルが低く、優れた製品や販路を有しているにもかかわらず、自社ブランド化によって大きな成長が見込める可能性があります。このようなメーカー企業のM&Aを、今後も積極的に展開していくことが、当社のM&A戦略の中心となります。
取材者:
貴社が手掛ける商品は、美容ブランドから電動自転車ブランドまで多岐に渡りますが、特定の分野に絞らず、幅広い分野にアンテナを張っているという理解でよろしいでしょうか。
回答者:
はい、その通りです。ニッチ市場で成長を目指すという戦略において、特定の分野に限定してしまうと、企業としての成長の可能性が狭まってしまうと考えています。マス市場での成長を目指すという考え方もありますが、当社は数億円から数十億円規模のブランドを、複数創出していくという成長戦略を掲げております。そのため、特定の分野に限定する必要はないと考えております。
また、マーケティングや商品企画などのノウハウは、ある程度共通化できる部分があります。チームの構築方法なども、少人数で効率的に事業を成長させることが可能です。「MiiS」と「MOVE」では、異なる体制で事業を展開していますが、効率化できる部分は共通していたりします。そのため、成長の可能性を考慮すると、特定の分野に限定する必要はないと考えております。
取材者:
貴社の創業の経緯について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
はい。創業の経緯ですね。私自身、前職ではMomentum株式会社というアドテクノロジー企業を経営しており、Syn.ホールディングスというKDDIのグループ会社に売却しました。当時、私が手掛けていたのは、アドベリフィケーションという、Web広告が不適切な場所に掲載されないようにするニッチなツールでした。例えば、航空会社の広告が航空機事故に関する記事に掲載されないようにする自動制御システムです。この事業を展開する中で、消費者の動きが、Webサイトの検索からアプリでの情報収集へと大きくシフトしていることを痛感しました。しかし、広告主の方はまだWeb側に軸足を置いており、需要と供給のギャップを感じていました。一般ユーザーが発信する情報の価値が向上していく中で、ライフスタイルの変化に対応していく必要性を感じていました。
具体的な例を挙げますと、ライスカレーという社名の由来は、共同創業者のひとりが画家であるゴッホを好んでいたことにあります。ゴッホをGoogleで検索すると、画家の情報が上位に表示されますが、Instagramで検索すると、カレーの写真が多く表示されるという現象がありました。これは、SEOでは上位表示されないような、マニア向けのカレー店「ゴッホ」が存在していたというエピソードに過ぎませんが、アルゴリズムが表示する情報よりも、一般ユーザーが発信する口コミや、インフルエンサーのような人々が発信する情報の方が、価値が高いということを示唆しています。メディアが多様化し、個人が情報を発信する時代において、そのような情報を活用したビジネスを展開することに、Web側にいたからこそ、大きな可能性を感じたことが、創業のきっかけとなりました。
取材者:
貴社が活用するインフルエンサーは、どのような属性の方が多いのでしょうか。
回答者:
インフルエンサーの属性は、事業によって異なります。例えば、「MiiS」であれば美容系のインフルエンサーが中心ですし、「MOVE」であれば、若い富裕層を多くフォロワーに持つインフルエンサーが中心となります。ただし、当社はインフルエンサーのキャスティング能力に特化しているわけではありません。インフルエンサーマーケティングは、あくまでマーケティング手段の一つとして捉えており、インフルエンサーマーケティング会社ではありません。
取材者:
昨年のタイミングでの上場の目的についてお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
成長戦略を推進していく上で、非上場企業として実行できる施策には限界があると感じていました。特に、潤沢な資金を調達し、M&Aによって事業を拡大していくという戦略は、私が元々ゴールドマン・サックスに在籍していたこともあり、重要な要素であると考えていました。当時IPOを検討していたのは、マーケティングソリューション領域の会社を買収するためでしたが、いずれにしても、M&Aによる成長戦略を推進していくためには、上場企業の方が有利であると判断しました。実際に、松村商店は9億円で買収することができましたが、その際、三菱UFJ銀行と、りそな銀行から7億円と2億円の融資を受けることができたのは、上場企業であったからこそ実現できたと考えています。未上場企業では、同様の条件での融資は難しかったでしょう。
取材者:
次に、今期の業績についてお伺いします。売上高は過去最高を記録しているとのことですが、これは新規M&Aによる貢献に加え、既存事業も成長していることによるものと理解してよろしいでしょうか。既存事業が成長している要因について、お聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
「MiiS」ブランドは、昨対比126%の成長を達成しておりますが、これは、TikTok向けに開発した「mm flora*」という8月に出した新商品がヒットしたことが大きな要因です。300万回再生を記録するなど、大きな反響があり、全国展開も実現しました。
今後、「MiiS」ブランドだけでなく、他のブランドにおいても、「mm flora*」のような成功事例を再現していきたいと思います。
取材者:
他のブランドにおいても、同様の手法を活用することで、成長が期待できるということですね。
回答者:
はい。TikTokという媒体に限らず、動画を活用したマーケティングは、「MOVE」においても活用できると考えております。今後、新商品を展開していく上で、マーケティングチャネルから逆算した商品開発は、再現性のある成長戦略として確立できると考えております。
取材者:
先ほど、人員を増やさずとも効率的な成長が可能であるというお話がありましたが、採用戦略や人材育成方針についてお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
はい。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)においては、ブランド数を拡大していく上で、ブランドマネージャーのような人材の育成が不可欠となります。例えば、「MiiS」ブランドで商品マーケティングを担当していた人材が、別のブランドのプロデューサー候補として活躍するケースがあります。「MOVE」のマーケティングを担当している人材は、元々「MiiS」を担当し、その後、別のブランドを担当しており、「MOVE」のM&A後に抜擢されました。このように、ブランド内で人材を育成し、M&Aによって獲得したブランドにも活用していくという人材育成の仕組みを構築し始めています。
人員を増やさなくても効率的な成長が可能であると申し上げたのは、ブランド数を拡大すれば当然人員を増やす必要はありますが、「MiiS」ブランド単体で見ると、昨対比126%の成長を達成しているにもかかわらず、人員は1名程度しか増えていないということです。これは、当社に限った話ではなく、ブランド事業を展開している企業であれば、売上が倍になっても、必要な人員は大きく変わらないというケースが一般的です。
一方で、マーケティングソリューション領域においては、一般的な採用戦略を採用しております。昨年の上半期は業績が低迷しましたが、その要因の一つとして、営業人材の確保がうまくいかなかったことが挙げられます。そのため、採用方法や給与体系などを見直し、テコ入れを行いました。その結果、第3四半期ではある程度改善が見られ、マーケティングソリューション領域も回復傾向にあります。
また、人員を増やしすぎてしまった結果、不採算案件が増えてしまったというのも事実です。IPOの準備段階において、どうしても目先の売上を重視してしまう傾向があり、LTV(顧客生涯価値)が低い案件を増やしてしまったという状況がありました。例えば、月額30万円の案件であっても、将来的に100万円になる可能性がある案件と、30万円にしかならない案件がある場合、本来であれば将来性のある案件を選択すべきなのに、30万円にしかならない案件の数を増やしてしまっていた、という状況がありました。現在は不採算案件の入れ替えを進めています。
来期は、マーケティングソリューション領域においては、そんなに売り上げが伸びる予想にはなりませんが、その利益を作る人間の数はコンパクトになっていくという方向性で、利益は成長していくというイメージです。
セールスミックスを改善して、それに合わせて内部、人間の配置を変えていくイメージです。具体的には、セールスミックスの案件は、小さい案件を切ってナショナルクライアント案件に寄せていっております。
取材者:
ブランド数の目標値はございますか?
回答者:
単発ブランドの話で言いますと、今あるブランドですと、市場の1%というのが一つのターゲットになっております。例えば、「MiiS」であれば、オーラル市場4,000億円の1%、40億円規模の売上高を5年以内に目指したいと思います。
「MOVE」であれば、大体1,000億円規模の電動アシスト自転車の市場規模の中で、1%であれば10億円規模になります。何かそういった形で、まず市場の1%を目指しましょうという目標を掲げています。我々がニッチグロースと呼んでいる市場で、そのくらいのシェアを獲得していかなければならないと考えています。今後のM&Aについてですが、松村商店モデルは非常に良いモデルであると考えており、来期以降もM&Aは成長戦略にも組み込んでいます。ただし、M&Aの件数については、具体的なガイダンスは出さない予定です。しかし、目指す方向性としては、ある程度、有効ブランドのような形になっているブランドですとか、メーカーというのが、
10個程度、また、1ブランド当たりの平均売上が10億円だとすると、それが10個あれば100億円規模になります。あるいは、平均売上が7億円規模であれば、それが15個あれば100億円規模になる、というような規模感のところを少なくとも5年ほどで達成できるのではないかと考えています。ただ、私としてはっきりガイダンスは明確にはまだ出さないという状況です。
取材者:
株主還元策につきまして、方針などをお聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
配当を出すという部分については、私自身は比較的ポジティブに捉えている人間なので、配当を出すことは良いと考えています。まず、原則のスタンスとしては、配当は出すべきだという考えです。ただ、まだ利益が低い状態で配当を出すよりも、他の会社の買収に投資すべきだという話になると思います。まだ当社はこの程度の利益規模、数億円程度の規模感であれば、配当を出すのは時期尚早だと考えています。しかし、例えば利益が20億円、30億円と出てきたときには、それでも配当するべきではないという考え方もあるのは理解できますが、私としては比較的配当した方が良いと考えているタイプの経営者です。
もう一つ、自社株買いについては、ある程度手元に現金があって、明らかにこの株価水準は不当であると経営陣が判断するのであれば、実施する可能性があります。
取材者:
業績に関わらないトピックス的なものが何かございましたら、お聞かせいただけますでしょうか。
回答者:
業績に関わらないトピックスとしましては、IRの進め方という点があります。現在の当社の成長戦略は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心とし、マーケティングソリューション領域がそれを下支えするという構造です。マーケティングソリューション領域は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を支えるノウハウであり、キャッシュを生み出す源泉であるという位置付けです。しかし、この構造は、現在のホームページを見ても全く伝わらないと思います。ようやく、私自身がこのIRで話すようになってきて、最近株価が少しずつ良くなってきたのも、私自身が直接IR対応をしているという部分が影響していると考えています。この、リブランディングのような取り組みが必要だと考えています。要するに、現在のマーケティング支援の会社から、ブランドプロデュースの会社に変わるというリブランディングです。このリブランディングに関しては、もっとIRなどの見せ方も含めて、しっかりとやっていかなければならないと考えていますし、情報の発信量も増やしていく必要があると考えています。
取材者:
本日上場されてから、機関投資家様とのミーティングの数というのはいかがでしょうか。
回答者:
もちろん、上場した当初はミーティングもあったかと思いますが。株価が不調だったこともあり、機関投資家とのミーティングは、その後は多くはありませんでした。ゼロではありませんが、あまり多くはなかったというのが現状です。しかし、第3四半期の決算発表をして、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心にします、松村商店のM&Aがうまくいっています、という情報を開示してからは、一気に取材が増えました。まだ、当社の規模が小さいので、大型の投資家からの注目はこれからだと思いますが、先日は海外の機関投資家からの取材が入ったりと、手応えを感じています。
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ビジネスモデルや事業内容
同社は、株式会社ライスカレー及び連結子会社3社(株式会社WinC、株式会社松村商店及びMOVE株式会社)により構成されており、インターネットコミュニティ領域において事業を展開している。インターネットコミュニティとはSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をはじめとしたインターネットのアプリケーションやサービスを通じて共通の関心分野、価値観や目的を持った利用者が集まって持続的に相互作用する場を指す。
インターネットコミュニティ領域におけるマーケティング支援事業を基盤とし、マーケティングで収集したデータを活用するブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心としている。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)では、ニッチトップ戦略を基本方針とし、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを展開している点が特徴である。また、自社ブランドの創出に加え、M&Aを通じてメーカー企業の優れた製品や技術をブランド化し、収益性の向上を目指している。これらの事業を支えるのが、多種多様な業種の顧客に対するマーケティング支援を行うマーケティングソリューション領域である。
特徴や強み
同社の強みは、SNSマーケティングで培ったノウハウやデータを活用し、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを展開する点である。また、マーケティングソリューション領域で得たノウハウやインフルエンサーとの関係構築などのマーケティングにおける様々なアセットをブランドプロデュースに活用することで、効果的な広告展開と高い利益率を実現している。
成長戦略
同社の成長戦略の要点は、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)を成長の中心に据え、マーケティングソリューション領域をその基盤として展開することである。ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)では、ニッチトップ戦略を基本方針とし、SNSマーケティングで培ったノウハウやデータを活用し、特定のコミュニティに向けたブランドプロデュースを積極的に展開する。具体的には、自社ブランドの創出に加え、M&Aを通じてメーカー企業が持つ優れた製品や技術をブランド化し、収益性の向上を目指す。
ニッチトップ戦略
ニッチトップ戦略は、成長性の高いニッチ市場でNo.1のポジションを確立することを目指す戦略である。ニッチ市場とは、大きなマス市場の中に存在する、成長性の高い市場を指し、同社は、マス市場ではなく、成長性の高いニッチ市場で成功を収めることを重視している。
M&A戦略
同社のM&A戦略は、事業承継型のメーカー企業を中心に、低いマルチプルでの買収を行い、ブランドプロデュース領域(自社ブランド事業)とのシナジーによって企業価値の最大化を図ることを目指す。メーカー企業の優れた製品や技術をブランド化することで、収益性の向上を図る。
創業の経緯と転機となった出来事
同社は、代表取締役の大久保氏が前職でアドテクノロジー企業を経営していた際に、消費者の動きがWebサイトの検索からアプリでの情報収集へとシフトしていることを痛感したことが創業のきっかけである。一般ユーザーが発信する情報の価値が向上していく中で、そのような情報を活用したビジネスを展開することに可能性を感じ、創業に至った。
直近の業績
「MiiS」ブランドは、新商品がヒットし、全国展開を実現するなど、高い成長率を維持している。マーケティングソリューション領域は、一時的に業績が低迷したが、採用戦略や人事制度の見直しなどのテコ入れを行った結果、回復傾向にある。
株主還元策
配当については、原則として株主への利益還元は重要と考えているが、現時点では利益水準が低いため、配当実施よりも成長投資を優先する方針である。将来的に利益水準が十分に向上した際には、配当実施を積極的に検討する。自社株買いについては、株価が著しく過小評価されていると判断される場合に、機動的な資本政策の一つとして検討する可能性がある。
代表取締役 大久保遼様